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Nota(ノータ)
2018年11月8日 8:30
Posted category : Article

ダンカンばか野郎

『ダンカンばか野郎』

 ひとは、ふとした瞬間恋に落ちる。
 大学生のとき、同じ文学サークルの黒くて長い髪が印象的なA子が、僕に涼やかな笑顔を向けてこう告げた。
「あの、バスケの漫画面白いね。漫画喫茶でずっと読んじゃった」
 魅力的な笑顔に惹かれて、僕は彼女の話に乗ることにした。
「月刊マガ〇ンでやってるディ〇ボーイズ?」
 僕はのどの渇きを潤すためにペットボトルティの蓋を開けながら質問をした。
「そんなタイトルじゃないよ」
 彼女は綺麗な髪をしなやかに振りながら否定した。
「じゃあ、ジャン〇コミックスの有名なあれかな?」
 問いかけを終えた僕は、ペットボトルティを口に含んだ。
「そうそう、ジャン〇コミックスのスリムダンカン♪知ってる?面白いよね」
 いきなり、スマートなたけし軍団員に対する面白さの同意を求められた僕は、回答する代わりに口に含んでいたお茶を、A子目がけて盛大に噴いた。
「きゃっ、ちょっとなにするのよ」
 僕が噴きかけたお茶に濡れたA子は、とても美しかった。
 僕は、漫画のタイトル間違いの可愛さと水にしっとりと濡れた妖艶な外見の合わせ技によって恋に落ちた。
 お茶を噴きかけたことの謝罪も、漫画のタイトル名の訂正も忘れて、僕はA子に見惚れてしまった。
「ちょっと、いきなりひどくない?」
 機嫌を損ねたA子がきつくこちらを睨みつけてきたので、僕は急いで弁解のために口を開いた。
「だって、漫画のタイトルがさ、君はスリムダンカンって言ってたけど、本当はそれスラムダンクだがぼぉえら」
 バチーンという平手打ちの破裂音がサークル活動室内に盛大に響き渡った。
 僕は恋に落ちた三十秒後にこれまた盛大に失恋をしていた。 了


Comment

やむ 6年前
投げ銭ありがとうございました。😂
からくり士 6年前
500 EXC
😂