プロローグ
プロローグ
美しい。
もう自分の名も朧げで、ただ土を踏み行くだけの抜け殻になってしまった。それでも美しいと感じる心は残っている。
遥か遠く、雲の切れ間から差し込む光の様な滝。その下には朝陽に輝くみずみずしい草花。いたずらな妖精たちが葉を弾きながら踊りまわり、きめ細かな朝露は虹色に輝いた。
足元にいる妖精が首をかしげて顔をのぞいてくる。あなたはだぁれって? さぁ⋯⋯、「サトシ」と呼ばれていたような。「ヤマモト」だったかな。
人間の搾りかすになってしまったけれど、ここでやらなければいけない役割だけは忘れない。
目の前には、頭以外を地に埋めた大岩。少し離れたところに、猫。多分、長く連れ添ってきたんだろう。きっとそうだ。
「安心して、もうこれで最後だから。後は頼んだよ」
猫なのに、あの心配そうな顔。うん、早く終わらせよう。
左手に嵌めた腕輪へ優しく、そっと語りかけるようにして魔力を通すと光が溢れ出す。
「原初の証は何人も触れること能わず」
「原初の証もて次なるものを明らかにせよ」
「次なるものはさらに次なるものを明し連環となせ」
「魔の循環から外れし連環は地に眠る」
「今こそは神秘が織りなす始まりの刻」
「顕現せよ! 其は、エクスカリバー!!!!」
大岩に剣を突き立て、あらん限りの魔力を流し込む。
瞬く間に大岩の奥底から地脈に一筋の光が走り、何匹もの龍が空を翔る様に世界へ散って行く。どこからか微かに、刻を告げる鐘が鳴った。
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