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クロスクオリア
2020年2月28日 12:04
Posted category : Article

『CROSS・HEART』Story.6 星宿の地図 6-4


「……終わった?」
「そうですね」
 ハールが軽く剣を振り、刀身に絡まった血液を払う。その足元には毛皮を赤黒く染めた魔物の抜け殻があった。
「こいつら、いくらか町役場で報奨金でねぇかな」
「期待はできませんね」
「そろそろヤバいんだよなー……」
 剣に付いた血や膏(あぶら)を布であらかた拭き取ってから携帯水晶にしまうと、深い溜め息をつく。
「出発するとき僕が足しましたけど、厳しいですか?」
「今すぐどうにかしないとってワケじゃねぇけど、ある程度の予備は欲しいだろ」
「最後に換金したのっていつです」
「リセ拾う前」
 賞金の懸かっている魔物は、狩人が生息場所まで出向いて討ち取り、確かに始末したという証拠、もしくはその死骸自体を役所や自警団に提示すると賞金が貰えるというのが一般的で、証拠品としては主に牙が用いられる。生きている魔物から牙を奪うことはほぼ不可能であるし、もしまかり成功したとしても牙が無ければ人も襲えず狩りもできないゆえ危険は無くなるということだ。賞金の懸っていない魔物でも報奨金が貰える場合もあるが、危険性や種によるため、今回のような魔物では望み薄だろう。先日倒した双頭の銀狼であれば話は別だが、あのときはそれどころではなかったため仕方がない。
「西部ならとにかく、この辺りじゃな……」
「戦える人間が三人もいることですし、多少難易度が高くてもまとめて大きい金額が入ればいいんですけどね」
 少々切実な会話は、夕風に流されていく。思ったより時間はかからなかったものの、見上げた空は日暮れの金に紺青が染み渡り始めていた。
 ――――魔物に襲われかけた直後に女将を台所に立たせるわけにはいかなかったゆえ、結局夕食は有りものを煮込んだシチューをイズムが作った。同席した彼女の口数は少なかったものの顔色はだいぶ良くなっており、心配は要らなそうである。ちなみに、夕食がシチューになった理由はというと、
「好きなんです、シチュー」
 だ、そうである。



 食事が終わった後、リセは片づけをする彼の後姿に声をかけた。
「イズム君! 洗うの手伝おうか?」
「え、あ、リセさん……」
 イズムは不意に声をかけられたことに驚いたのか、微かに目を見開く。しかし、すぐに愛想のいい微笑を浮かべた。
「すみません、ちょっと考え事をしていて……何か?」
「何かっていうほどでもないんだけど、手伝うこと、あるかなーって……」
「いえ、大丈夫ですよ、すぐ終わりますから」
「そう?」
「はい、ありがとうございます」
 確かに彼の手元を見てみると、汚れた食器はもうほとんど残っていなかった。これくらいであれば、下手に二人でやるよりは一人の方が早いだろう。
「……えっと」
 しかしリセは彼の傍から離れようとしない。
「進路がどうなるかはまだ分からないですけど、どちらにせよ明日もたくさん歩くでしょうし、リセさんは休んでいてください」
「う……ん」
 そう言ったものの、リセは未だに浮かない顔のままであった。理由は分からないが彼女の表情が憂いを帯びたままというのも居心地が悪いので、会話を続けつつもその色を変える。
「何かあったら、ハールに手伝わせますから」
 その効果はあったようで、俯いていた彼女はぱっと顔を上げた。
「前も別の人が同じようなコト言ってたんだよ、ハールに手伝わせるって」
「ハールはどこでもそういう扱いなんですね」
「そういう冗談言える仲って、いいよね」
 リセは口元に手を寄せ、小さく笑った。
「みんなハールのこと好きなんだね」
「……え、そのみんなって、僕も含まれてるんですか?」
「うん!」
「――――……」
 彼女が元気よく頷き、彼が何かを言いかけたその時、二階へ続く階段からフレイアが顔を覗かせた。
「リセー、お風呂入るー?」
「あっ、入るー!」
 リセは振り返り、手を挙げて答える。
「じゃあ先入ってるよ!」
「はーいっ……ってあれ、また一緒なの!?」
 イズムは、友人と他愛のない会話を交わす彼女から目線を外す。
 最後の一皿を洗ってしまおうと手を浸した桶のなかの井戸水は、少しぬるくなっていた。

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杏仁 華澄 5年前
久しぶりにポケモンパンを食べたらハクリューのシールがでました。うれしみ