プロローグ2
◇
剣と剣が交差し合い、鉄と岩との悲鳴が声を上げ、風など容易に断ち切る衝撃波を撒き散らす。
無機なる炎纏いし黒き戦士と、有機なる獣の耳持つ白き勇者。彼と彼女の剣戟は確かに一般人の目からはただの【殺し合い】、と恐ろしい物かもしれない。しかし、【戦い】、として見るのならば、それはまるで躍りをしているかのように優雅で美しい物に見える。
それは古代ローマの時代からコロッセオという非日常を嗜む、残酷な人間の本性…かもしれない。
◆
今日僕は一家心中を決行する。
理由は親の精神崩壊。原因は自分が外に連れ出される度に向けられる憐みの視線に耐えきれなくなった事からだ。
せめてもの贖罪に自分諸とも火の中に消えてしまえば親も楽にしてあげられる。それだけがこの無価値な人生の中で唯一なかった事にしたい悔いだから。
…と、いつもそうやって僕の心の中にある黒いものが都合よく誤魔化そうと正当化させてくる。
僕は死後の世界があるのなら、虚無がいい。
何も考えず、何も聞かず、何も喋らず、何にもなれない残骸として虚空の中へと還っていきたい。
チートだとか、ハーレムだとか真っ平御免だ。
「味わうのならば、たった一つの戦う機会とたった一つの敗北でいい」
これが現世…いや、これより先の生を締めくくる最期の遺言。そう言葉に出した。誰の耳にも聞こえやしないが。
そして「Real;Users」にも遺言を。
漆黒の戦士はファスタルダにて人が一番集まる集会所に足を運ぶ。普段来ないもので、周囲のプレイヤーはざわめきを隠し切れず、エクスクラメーションとクエスチョンを一斉に出してしまうが、
それは虎龍王こたつおうにとっては予想の範疇ではあったが。
そして中心の位置で止まり一言。
「富凍滉は今日一家心中する。遺言、渇望は只一つ。」
唯一愛読していた漫画の台詞を引用し、大々的に、恥知らずに言葉を添える。
『ただ一つの敗北が知りたかった』
場はざわめきを広げ、数分後には掲示板にてスレッドが多数作られるだろう。
さぁ全てログアウトしよう………
………?
少なくとも僕の視界からログアウトのメニューボタンも、赤いXのボタンも、スタートボタンもパソコンからはあたかも最初から無かったかのように消えていた。
「クックルー」
そして再び鳩の鳴き声がする。メールの受理自体は基本的に運営以外からはミュートしていた筈だ。何故このタイミングで?
「クックルークックルークックルークックルー」
鳩は鳴り止まない。喧しいぐらいに鬱陶しい。まるで目覚まし時計が壊れても尚鳴り続けるような。まぁ、目覚まし時計なんて10年以上姿も形も見たことはないのだが。
クッククッククッククッククッククッククッククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククRRRRRRRRRRRRRRRRRR…
鳩の鳴き声が加速し続ける。流石にもう狂気しか感じ取られない。気付けば画面には自分しか映っていない。悪寒と冷や汗が出た僕は周囲を見渡すと、この空間自体が停止していた。
呼吸を整える。整えても震えは止まらない。それでも、僕は震える指で鳩の気持ち悪い呻き声を掻い潜り、メールの方へとカーソルを向けた。
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