雑司ヶ谷高校 執筆部
図書室でからまれる
「キミィ!!!」  突然、図書室に響いた甲高い声に僕は驚いて、その声の方を向いた。  ここで大声を出すなんて、いくら図書室が空いているとはいえ非常識な。  一体、誰だ?  僕の目に入ったのは、金髪の長い巻き髪でメイクが派手な小柄なギャル。制服をだらしなく着崩して、スカート丈も短い。  そのギャルがいつの間にか、僕の横に立って見下ろしていた。  まさか、カツアゲ???  図書室は他に誰も居なかった。受付には図書委員がいるが、この席は本棚のせいで死角になっている。  まずい。 「お、お金なら、持ってないです…」  僕はそう言う。本当に現金はほとんど持ち歩いていない。  今時、支払いは何でもスマホでQRコード払いだ。  いや、最近のカツアゲも進化して、QRを差し出されて、QRコード払いということがあるのかも知れない。知らんけど。  ギャルは僕の言葉を聞いて怪訝そうな顔をした。 「は? アタシを何だと思ってるの?」 「え? カツアゲかと思いました」 「アタシは、そんな不良じゃないよ」  ギャルは呆れたように肩をすくめた。  とすれば、いったい何の用だろうか?ギャルに声を掛けられる理由がわからない。  その僕の頭に浮かんだ疑問を察知したようにギャルは話を続けた。 「いやー、キミに目を付けてたんだよね」。 「え?」 「キミ、放課後、良くこの図書室に来てるじゃない?ということは部活には入っていないということだよね?」  確かに、特に興味のあることもなかったし、できれば家でゆっくりしたいと思っていたので、どこの部活にも、委員会にも入らなかった。  いわゆる帰宅部と言うやつだ。  そして、図書室には週2回ほど来ていた。ほとんど利用者が居ないので、だれにも邪魔されず落ち着いて宿題ができるからだ。  そんな僕に目を付けていたということは、この人も良く図書室に来ていたのだろうか?  しかし、ギャルと図書室、あまり似つかわしくない組み合わせだ。  ギャルは僕に顔を近づけて話を続ける。 「キミ、歴史研究部に入らないか?」 「レキシケンキュウブ????」  ギャルから出て言葉があまりにも予想外だったので、理解するのに数秒かかった。  歴史研究部、名前だけはなんとなく憶えている。  この高校に入学して間もない時に、講堂で各部活の代表者たちが壇上に上がり自分たちの部活のアピールをするような時間があった。  その時に見たことがあるような、無いような。  そもそも、どの部活に興味が無かったので、ちゃんと見てなかったけど。  このギャルが歴史研究部の加入を勧めてくるということは、彼女も歴史研究部の部員ということか?  ギャルと歴史、この組み合わせも、大概似合わないな。 「なんで僕を?」 「いやー。今年、歴史研究部に1年生が入らなくてね。何とか部員を増やさないと、来年以降、存続の危機なんだよねー。で、今、部活に入ってない1年生を捜していたのよ。この時間に図書室にいるということは、どこの部活にも入っていないという事でしょ?だから、ぜひ君に入部して欲しいんだよね」 「確かに僕は帰宅部ですが…。でも、すみません。歴史にはあまり興味が無いです」。 「興味なくてもOK!」 「えええー???」 「正直、幽霊部員でも構わない」 「えええー…」  僕が回答に逡巡していると、ギャルは僕のノートを覗き込んで言った。 「それ、宿題?」 「そうです」 「じゃあ、部員になったら勉強を教えてあげる」  それはちょっと、ありがたいな。  今の話の流れから、このギャルは2年生だろうが、勉強なんて全然できそうにないんだが、大丈夫なのだろうか? 「先輩が教えてくれるんですか?」 「いやいや、アタシは教えられないよ、勉強はさっぱりで」。  あかんやん。 「でもね、部長は成績優秀者だから、あの人に教えてもらえればいいよ」。  部長が成績優秀者だと?  ちょっと心が揺らいだが…。 「まあ、幽霊部員でもいいのであれば」 「おお!!決まりだね!!早速、部長を紹介するよ」。  ギャルはそういうと、僕の腕をつかんで引っ張った。 「ちょ、ちょっと待ってください」  僕は宿題のノートをまとめて鞄に入れ、ギャルに引っ張られて図書室を後にすることになった。
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