金曜日、今日は英語の小テストのある日だった。 　昨日、伊達先輩にその対策の為に、英語を見てもらった。おかげで、いつもより簡単に出来た、ような気がする。 　来週、採点されて結果が戻って来るが、ちょっと期待できそうだ。 　今日も校舎の四階、端の端、歴史研究部の部室である理科準備室に向かう。 　昨日、勉強を見てもらったお礼と、今日の小テストの手ごたえを伊達先輩にお知らせしたいと思ったからだ。 　なんか、結局、毎日部室に行っているな。 　理科準備室の扉を開けると、いつものように、伊達先輩と上杉先輩はポテチをつまんでいた。 　僕の姿を見て二人は声を掛けてきた。 「来たね！」 「いらっしゃい」 　僕は椅子に座りながら言った。 「ポテチ、好きなんですね」 「ポテチ以外も、チョコとかケーキも好きだよ」 　上杉先輩が言った。 　伊達先輩はポテチの袋をこちらに向ける。君も食べろということだ。 　僕は軽く頭を下げて、ポテチを一枚つまんで口に放り込んだ。今日も、うすしお味だ。 「伊達先輩。今日の英語の小テスト、昨日、見てくれたおかけで、うまく出来たと思います。結果は来週ですが」 「手ごたえがあったということは、出来たってことじゃない？」 「と、思います」 　上杉先輩が甲高い声上げて、僕の背中をたたいた。 「よかったねぇ！」 　痛い。ちょっと、手加減してほしい。 「ところで、明日からの城めぐりの話なんだけど」。 　伊達先輩は話題を変えた。 「甲府城、武田神社、松本城、名古屋城、掛川城を巡るわよ」 「えっ、五つも回るんですか？」 「ええ楽勝よ。甲府に甲府城、武田氏館の二つがあるのよ。だから、一日目で、甲府城、武田氏館、松本城。名古屋に泊まって、二日目で名古屋城、掛川城を攻略するわ」 「移動費は節約する。しかし、節約するのであれば、すべて在来線を使うのが一番安上だけど、時間が余計にかかりすぎるとか、体力の問題とかあってね。私たち女子はか弱いから、適度に特急とか新幹線を使うことにします」 　か弱い？ 「まず、ちょっと早いけど朝６時に池袋のいけふくろう前に集合。池袋から新宿、新宿から中央線で立川まで。立川から“あずさ号”に乗って甲府まで」。 「ちょっと待ってください、“あずさ号”は新宿から出てるんじゃないですか？」 「そうよ、でも、新宿から甲府までの特急料金は１，５８０円。でも、立川から甲府までにすると特急料金は１，０２０円になる。５６０円浮かせることができるのよ。それに立川までだったら電車の本数は結構多いから」 「へー」 「甲府で甲府城、武田氏館を見た後は、甲府から“あずさ号”で塩尻まで」 「あれ、“あずさ号”は、松本まで行けるんじゃあ？」 「そうなんだけど、立川から甲府にしたのと同じ理由。甲府から松本の特急料金は１，５８０円、甲府から塩尻までは１，０２０円。ここでも５６０円浮かせることができる。塩尻から松本は普通電車で１６分だから、乗り換えの負担は少ない」 「へー」 「松本城を見てから、名古屋に向かう。これは、“ワイドビューしなの”という特急に乗る。そして、名古屋泊」 「ふむふむ」 「で、翌日、名古屋城を見てから新幹線で豊橋まで、豊橋から在来線で掛川まで」。 「すいません、度々。豊橋で降りずに掛川まで新幹線で行ってしまえばいいのでは？」 「本当は在来線で移動するのが安上がりだけど、前日の松本～名古屋の特急料金で『乗継割引』を使うから。名古屋～豊橋で新幹線を使わずに、松本～名古屋だけの特急料金（自由席）は２，２００円。そこで、名古屋～豊橋まで新幹線利用で松本～名古屋の特急料金が乗継割引適用で半額の１，１００円になる。 　名古屋～豊橋　新幹線自由席　９９０円 　松本～名古屋　特急料金　１，１００円（乗継割引で半額） 　------------------------------------------------------ 　合計　　　　　　　　　　２，０９０円 　だから、１１０円得というわけ。しかも、豊橋までは早く行ける。でも、名古屋から掛川までは新幹線自由席で２，５３０円もするからね。節約ということを考えると却下よ」 ？？？ 「なるほど」。 良くわからないが、相槌を打っておく。 「そうそう、名古屋で降りる場合は、金山～名古屋の往復乗車料金３４０円は別途払う必要がある。 「へ？？？」 「これは説明が面倒なので割愛するわ。ということで、移動のための交通費はこうなる。 　池袋～新宿～塩尻～名古屋～東京　１０，６７０ 　塩尻～松本（往復）　　　　　　　　　　４８０ 　金山～名古屋（往復）　　　　　　　　　３４０ 　あずさ特急料金　立川～甲府　　　　１，０２０ 　あずさ特急料金　甲府～塩尻　　　　１，０２０ 　しなの特急料金　松本～名古屋　　　１，１００（乗継割引で半額） 　新幹線自由席　　名古屋～豊橋　　　　　９９０ 　-------------------------------------------------------------------- 　合　　　計　　　　　　　　　　　１５，６２０円」 「すみません。池袋～新宿～塩尻～名古屋～東京って乗車券、おかしくないですか？」 「おかしくないわ。これは遠距離逓減制というのがあって、細切れに乗車券を買うより、途中駅がだぶらず、一筆書きになるのでなれば、こういう乗車券も作れてお得になるのよ。というか、こういう乗車券にするために、今回、見るお城を選んだのよ。ということで、池袋～甲府、甲府～松本、松本～名古屋、名古屋～掛川、掛川～東京とその都度、乗車券を買うと、 　池袋～甲府　　２，３１０ 　甲府～松本　　１，９８０ 　松本～名古屋　３，４１０ 　名古屋～掛川　２，３１０ 　掛川～東京　　４，０７０ 　---------------------------------- 　合　　　計　１４，０８０円 　となって、池袋～新宿～塩尻～名古屋～東京　１０，６７０円と松本～塩尻往復４８０円、名古屋～金山往復３４０円を足した額より、だいぶ割高でしょ」 「ほえー。先輩すごいですね。あれでも、これって、甲府とか途中下車になりますよね？大丈夫なんですか？」 「乗車券の有効期間ってのがあってね。１０１ｋｍ以上２００ｋｍは２日、４００ｋｍまで３日、それ以降、２００ｋｍごとに１日延びていく。今回の行程は約７５０ｋｍになるから…、有効期限は５日。その間は途中下車してもOKなのよ」 「なるほど。でも、なんか複雑ですね…」 「まあ、私たちも先輩たちに教わったんだけどね。というわけで、明日、朝６時いけふくろう前、遅れないでね」 「うーん、よくわかりませんが、わかりました」 　その後、ポテチを食べ、明日もあるし早めに解散した。