引き続き、部室で駄弁っていると。
上杉先輩が、急に思い出したように椅子を引きずって、僕の隣にピタリと着けた。
「ねえ、ねえ、ねえ」
そう言って、僕の顔を覗き込むように近づけた。
近い!
僕は動揺を隠しつつ、何とか答えた。
「何でしょう?」
「妹が居るって、言ってたよね」
「言いました」
「今度、会わせてよ」
「え…、何でですか?」
「深い意味はないけど…、好奇心?」
上杉先輩の好奇心を満たすために、妹は存在していない。
「私も会ってみたいわね」
なんと、伊達先輩まで妙なことを言いだした。
「提案だけど、週末に武田君の家で勉強するというのはどうかしら?」
「えっ…?」
「そこで、ちょっと時間をもらって、妹さんを紹介してくれれば」
「その勉強会、私も行く!」
上杉先輩が手を上げて身を乗り出した。
だから、近いって。
それに、上杉先輩は勉強しないでしょうが。
「まあ、良いですけど…。妹は別に普通ですよ」
「えー。血が繋がっていない設定とかないの?」
「そんな設定は無いです! そもそも『設定』ってなんですか?」
伊達先輩が話に割り込んで来た。
「血が繋がっていてもそれはそれで、禁断の香りがするわ」
えええー。伊達先輩、一体、どうした?
「先輩方! 僕らきょうだいに何を求めているんですか?」
「おもしろい話に飢えているんだよ」
上杉先輩はそう言う。しかし、先輩二人のためにおもしろ話ネタを提供する兄妹になるつもりはない。
「血が繋がっている兄妹の禁断愛とか、そそられるわね」
伊達先輩、飛ばしてくるなー。
「いやいやいや、そんな漫画みたいな話ないですから。それとも最近漫画で、そういうの流行っているんですか?」
「そういうわけじゃあないけど。じゃあ、週末、よろしくね」
なんか、押し切られた。
この二人のペースに合わせるの大変だな。