雑司ヶ谷高校 執筆部
僕は向上心が少ない
 月曜日。  朝、学校へ登校する。  今日は、生徒会と風紀委員の複数名が合同で服装チェックをするため、校門前に並んでいた。  自分は注意されることは無いだろう。ところで、いつも上杉先輩はスカートが短いが、ここを通過できるのだろうか?  要らぬ心配をしながら、生徒会と風紀委員達の前を抜け、校舎の入り口まで行くと見知った顔があった。  伊達先輩がタスキを掛けて立っていた。両側に女子生徒を二人従えて、何やらビラを配っている。 「伊達先輩?」  ちょっと驚いたので、僕は挨拶も忘れて、彼女に近づく。 「あら、おはよう」 「これは?」 「選挙運動よ」  タスキを見ると、彼女の名前『伊達恵梨香』としっかり書かれていた。 「本物の選挙みたいですね」 「何言っているの? 本物の選挙よ」 「いえ、政治家の本物の選挙みたい、という意味です」  伊達先輩は確認するように襷に手を掛けると、改めて言った。 「まあ、今まで会長選挙でここまでやった生徒はいないみたいだけど」 「そうなんですね」  1年生の僕には生徒会長選挙の事情は全く知らない。  伊達先輩の右隣に立っている女子生徒からビラを受け取った。  公約が見やすく、読みやすく並んでいた。  それを丁寧に畳んで制服のポケットに入れた。 「武田君も一緒にやらない?」 「一緒にって、横に並んでビラ配りですか?」 「ビラじゃなくて『マニュフェスト』ね」 「本格的ですね」 「で、どうする?」 「いや、それは遠慮します」 「そう」  伊達先輩はちょっと残念そうに視線を下に向けた。 「じゃあ、放課後に」  僕はそういって伊達先輩と別れた。  彼女は、ぱっと見は、あんな風に大勢の人の目に着くようなことをしたりするような印象じゃあ無いんだけどな。生徒会長の座はそんなに魅力的なんだろうか? ちょっと僕には理解できないが。そういえば、以前、『自分を変えたいと思った』と言っていたな。向上心が旺盛という事だろうか?  人の目につくと言えば、自分も伊達先輩の応援演説で明後日の水曜日には全校生徒の前に立たないといけない。それ用の文章も昨日のうちにすべて考えておいた。不安は多々あるが、当日は当日の自分に頑張ってもらうことにする。
ギフト
0