雑司ヶ谷高校 執筆部
歴史研究部活動記録
 応援演説が終わって翌日。肩の荷が下りたので、学校へ向かう足取りも少しだけ軽くなった。  学校に着くと、今日も伊達先輩と仲間が校舎前に立って、顔と名前を売り込んでいた。ここは挨拶だけして教室に向かう。    肩の荷が下りたと言っても、『エロマンガ伯爵』という不名誉なあだ名はつけられたままだ、しばらくは、他の生徒からの嘲笑に我慢する必要があるだろう。面倒くさい。  まだ、1年B組まで僕を見に来る者が少なからずいた。  そんなこんなで、今日も我慢の1日が終わり、あっという間に放課後。歴史研究部の部室に顔を出す。 「やあ!きたね!」  上杉先輩が元気よく声を掛けて来た。 「いらっしゃい」  伊達先輩もいつものようにポテチをつまんでいる。 「今日は」、早速、伊達先輩が話を切り出した。「土曜日の城めぐりの件の打ち合わせを」  城めぐり。  そうだった、この部のメイン活動は日本100名城を2年かけて全部回るというものだった。  歴史研究部、というか、伊達先輩と上杉先輩に関わるようになってから、日常が一挙に濃くなったので、頭が着いて行かない。 「ええと…、それで、今度は、どこに行くんですか」 「今回は近場よ。江戸城と八王子城を回ろうと思うの」 「どちらも都内ですね?」 「そう。新宿駅で集合して、京王線で高尾駅まで。先に八王子城に行って。また京王線で新宿駅まで戻って、新宿からはJRで東京駅まで行って、江戸城に行こうと思っているわ」 「八王子城は最寄り駅が高尾駅なんですか?」 「そうよ」 「じゃあ、今回も参加します」 「決まりね」  伊達先輩は、紙パックのジュースをストローで1口啜ってから、話を続ける。 「そういえば、言うのを忘れていたけど、学園祭の事なんだけど」 「学園祭?」 「歴史研究部も参加するんだけど、その一つに『展示』があるのよ」 「何の展示ですか?」 「回ったお城の写真とか、お城の感想とかを掲載するのよ」 「面倒くさいですね。去年の使いまわしはダメなんですか?」 「去年のものは残ってないわ。残っているのは写真ぐらいね」 「そうですか…。展示はやらないといけないですか?」 「私たちみたいな部は、学園祭での展示も活動報告の意味があって、伝統的にやってきたこともあるし、OBやOGも遊びに来ることもあるから」 「学園祭っていつでしたっけ?」 「9月の最終週の土日よ」 「夏休み中に準備すれば楽勝ですね」 「そうね。夏休みにもたくさんお城を回る予定だから、それを活動記録として展示にすればちょうどいいわね」 「あとは、学園祭で使用する教室の割り振りの関係で、どこかの部とコラボするのよ」 「ここではやらないのですか?」 「立地が悪すぎるわ。校舎のこの端っこの準備室じゃあ、よっぽどのもの好きじゃないとやってこないわね」 「確かにそうですね。それで、コラボというと?」 「これまでは、私たちみたいな弱小部活が何個か集まって合同で1教室借りてやる、みたいなことをしていたわ」 「そうなんですね」 「うちの高校は小さい部活が多いから、そういうのが許されているのよ」 「去年は、どことコラボしたんですか?」 「占い研と手芸部よ」 「歴史研と共通点あまりないですね」 「そこの所属メンバーに友達が多いのよ。去年は彼女たちと、占いカフェをやったの。占いは占い研のメンバーがやって、調理と配膳と宣伝は歴史研と手芸部が担当したわ」 「それで、歴史研の展示もあったわけですよね?」 「教室の後ろの壁1面を使ってやったわ」 「ほかに教室内では、手芸部が自分たちの作品を売ったりしていたし、カフェの売り上げも、まあまあだったから大成功だったわ」 「へー、そうなんですね」 「多分今年も、同じような感じになると思うわ」 「ちょっと楽しみです」  中学時代は完全帰宅部だったので、出店などは参加せずに、校内をぶらぶらして時間をつぶすだけだった。なのに、この高校での学園祭を楽しみにしている自分が意外だった。
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