雑司ヶ谷高校 執筆部
非日常
 火曜日、放課後。  僕はいつものように歴史研究部の部室に向かった。  いつものように、伊達先輩、上杉先輩が居た。 「いらっしゃい」 「来たね!」 「こんにちは」  もう、お約束の挨拶だ。 「今日は、毛利さんは図書委員の仕事で図書室です」 「ええ、わかっているわ」  伊達先輩はいつものように表情を変えずに話をする。 「毛利さんだけど、趣味は読書なんでしょ?」 「はい、休憩時間はいつも本を読んでいます」。 「彼女の入部の理由だけど、歴史に興味があると言ったけど、本当の目的は他にあると思うのよ」 「でも、毛利さん、歴史小説も読んでいるって言ってませんでしたっけ?」 「彼女のお気に入りの作家は陳舜臣。彼は中国の歴史小説が多いのよ。でも、この部は、日本100名城を巡るとか、日本の歴史を研究するって建前でしょ」 「はあ」 「だから、きっと本当の目的は他にあるのよ」 「それは何ですか?」 「さあ、それは何かしら?」  と言うと、伊達先輩は少し微笑んだ。  何か隠している笑いだな、鈍感な僕でもそれはわかる。  上杉先輩を見ると、スマホをいじりながらニヤニヤしている。  まあいいや、今度、毛利さんに直接探りを入れてみよう。 「ところで」  伊達先輩が話題を変えてきた。 「夏休みの予定だけど、10は回りたいわね」 「お城ですか? 10は…、大変ですね」 「楽勝よ」  伊達先輩はおもむろに日本地図を取り出して机の上に広げた。 「関東で5つ。中部から関西方面で5つ。『青春18きっぷ』を使って回るのよ」 「なんですか? その…、18きっぷ??」 「夏休みの間に使える、JR乗り放題のきっぷね」 「そんなのがあるんですね」  伊達先輩は、本当になんでも知っているな。彼女は話を続ける。 「12,050円で5回、在来線であれば乗り降り自由よ」  伊達先輩は日本地図を指さしながら話す。 「それで、中部から関西は岡崎城、犬山城、彦根城、二条城、大阪城の5つ。関東は、川越城、鉢形城、足利氏館、金山城、箕輪城の5つ」  二条城、大阪城以外は聞いたことが無かった。 「ええと…、泊りになりますよね?」 「中部~関西は2泊3日にするつもり、関東は2回日帰りすれば5つ回れる計算。そうすると、青春18きっぷ5回分、ちょうど使い切ることができるわね」  そうなんだ。よくわからないが、もう、お任せしよう。 「あと」 上杉先輩が口を挟んだ。 「合宿もするよ」 「歴史研究部で合宿とは、何をやるんですか?」 「部員間の親睦を深めるためってのが建前。部費で温泉でも行こうってのが本音」 「お城巡りでも親睦が深まるのでは?」 「温泉に行きたいの!」  上杉先輩は強調した。  お城巡りの時の宿泊先を温泉地にすればいいのに、と思ったが面倒なので突っ込まないで置いた。  しかし、この部、意外にイベントが多いな。非日常が日常になりつつある。
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