雑司ヶ谷高校 執筆部
木曽川
 グーグルマップで近くのコンビニを検索すると、15分程離れたところにある。  往復30分か。ちょっと遠いな。  僕は時々、スマホでの地図を確認しながら進む。その後ろを毛利さんがついて来る。  コンビニに行くには、木曽川に架かる橋を渡らなければならない。  夜になって、この辺りは川の近くという事もあって、風が少し涼しく感じられた。 「ねえ」  しばらく歩いたところで、毛利さんが話しかけて来た。 「伊達さんとはその後どうなの?」 「どう、とは?」 「何か進展があったのかなって」 「進展も何も。夏休みに入ってから伊達先輩と会ったのは、お礼状を書いた日と、今日だけ。プライベートではLINEもやらないし」 「そう…」 「あの人が、どういうつもりでキスしてきたのかはわからないけど。いや、たぶん、僕をまた利用しようと思って、籠絡しようとしてるんだよ」  橋を渡り切り、しばらく進むと、ようやくコンビニに到着した。  メモを確認して、先輩二人の買い物をして、僕と毛利さんもそれぞれ買い物をして会計をした。  弁当、おにぎり、総菜、デザート、お菓子などの入ったレジ袋を手に毛利さんに声を掛ける。 「さて、帰ろう」  しばらく歩いて、再び木曽川に架かる橋の上を歩いているところで、毛利さんがまた話しかけて来た。 「ねえ」 「なに?」 「武田君は、伊達さんの事が好きなの?」 「なんで? そんな訳ないよ」  毛利さんは、この話にこだわるな。 「あの人とは性格が合わないよ、前に言わなかったっけ?」 「聞いてないわ」  毛利さんには言ってなかったか。 「頬にキスされたぐらいで、心が揺らいだりはしないし」 「そう」  しばらく歩いて橋を渡り切ろうとしたあたりで、三度、毛利さんが声を掛けて来た。 「もし…、もし、私がキスしても、心は揺らがない?」 「え?」  何を言うんだ、毛利さん。  伊達さんの件では頭の中が混乱しているのに、これ以上、僕を混乱させないでほしい。それに、冗談としたら、今一つだ。  僕は露骨に話題をそらすことにした。 「早く戻ろう。あまり遅くなると、上杉先輩がうるさい。それに、僕もお腹が空きすぎて倒れそうだ」  僕らは少し早歩きにして、道を急いだ。
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