雑司ヶ谷高校 執筆部
強行採決
 そして、ついに合宿の日。  朝9時に学校前に集合する。  今回は電車ではなく、なんと部の顧問の島津先生が車を出してくれるというのだ。  電車だと乗り換えがあるから何かと面倒だが、今日はそんなことが無いので、楽チンだ。  そして、今日は朝の出発がやや遅めなので助かる。  合宿の行先は伊東。  そこの旅館に泊まって温泉でも入って、親睦を深めようということになっている。そして、数日前にLINEの連絡で決まったのだが、旅館の前に伊東の海水浴場で泳ごうということになっている。  目的地までは、渋滞にハマらなければ、2時間と少しで到着するだろうとのことだ。  15分ぐらい前に学校へ到着するとすでに白い乗用車の脇に島津先生が立って待っていた。 「おはようございます」  僕は挨拶した。 「おはよう」  先生が挨拶を返してきた。 「早いのね」 「家が近いですからね」 「この近所に住んでいるの?」 「ええ、徒歩5分です」 「それは近くていいね」  そう言って先生は笑った。  島津先生は2年の授業をメインで受け持っているようだから、1年生の僕とは普段は全くと言ってもいいほど接点がなかったので、何を話題にしていいかわからん。  他のメンツ、早く来ないかな…。  何とか話題作りをする。 「ええと…、先生は何の授業を受け持っているんですか?」 「社会よ」 「だから歴史研の顧問なんですね」 「まあ、そんなところね」  会話終了。  しばらく沈黙が続くが、やっと伊達、上杉、毛利がゾロゾロとやって来た。  約束の時間9時ぴったりだ。 「「「おはようございます」」」 「みんな揃ったわね。じゃあ、乗って乗って」  僕は助手席に座る。  他の女子3人は後ろの座席に座る。  車は高速道路に入って、渋滞もなく順調に進む。  車内では女子達が雑談をしていたが、突然、伊達先輩が僕に話を振って来た。 「そういえば、武田君、夏休みの宿題は進んでる?」 「ええ、まあ、それなりに」  実はそんなに進んでいない。 「何でですか?」 「夏休み前に、宿題を見てあげるって約束をしたものだから」  そういえば、そういう話もあったっけ。  僕が夏休みの部活をさぼろうと、『部活をやっていたら夏休みの宿題ができない』と言ったところ、伊達先輩と毛利さんが宿題を見てくれるということで、しぶしぶ夏休みの活動に参加することにしたんだった。  宿題、見るだけでなくて、代わりに全部やってくれないかな。  まあ、無理か。 「じゃあ、合宿から戻ったらみんなで勉強会でもやりましょうか」  伊達先輩が提案する。 「いいね! やろう! やろう!」  上杉先輩が同意する。  いや、上杉先輩は勉強しないやん。 「いやあ、歴史研は真面目だねえ」  島津先生が間に入って来た。 「さすが優等生ばかり」  優等生なのは伊達先輩と毛利さんだけだぞ。 「卓球部はそういうことないのですか?」  僕は尋ねた。 「みんな、卓球の事しか話さないわね」  それはそれで真面目な気もするが。 「じゃあ、勉強会は来週、武田君の家に集合しよう」  上杉先輩が勝手に決めようとする。 「なんで、うちの家なんですか? 部室でもいいじゃないですか」 「キミの家ならベッドがあるし、エロマンガもあるし」 「いや、上杉先輩は、寝ながらマンガ読まないで、勉強してくださいよ」 「まあ、場所的にみんなの家から中間地点にあるからちょうどいいのよ」  と伊達先輩。 「学校もほぼ同じじゃないですか?」 「私も武田君の家が良いです」  毛利さんが珍しく意見表明した。 「多数決だね」  上杉先輩がニヤリと笑う。 「これは、数の暴力です」  と僕は抗議したが、結局、強行採決された。
ギフト
0