雑司ヶ谷高校 執筆部
島津先生の正体
 ついに卓球部の合宿に行かねばならない日となった。  家を出る時、また妹に『一人で旅行ばかり行っている』となじられた。  別に行きたかったわけではないのだが。特に今回は。  池袋のいけふくろうの前に8時集合ということで、やる気のない僕は時間ギリギリに到着した。  歴史研の顧問で卓球部の顧問も兼任している島津先生を、すぐ見つけることが出来た。 「おはよう。来てくれたのね」  島津先生が僕に気付いて話しかけて来た。 「おはようございます…。まあ、約束しましたからね」 「早速だけど、これ持って」  と、言って差し出したのは虫取り網。  なんだこれは? 合宿の休憩時にセミでも取りに行くのだろうか?  しかし、面倒なので質問はしない。  僕は集まっている卓球部の部員を見回した。男子3名、女子6名の9人。  合宿場へ向かうのは僕と先生も合わせて合計11人となる。  女子達の僕を見る目つきが、なんとなく軽蔑の眼差しと感じるのは、エロマンガ伯爵の一件のせいだろうか。 「じゃあ、行きましょう」  島津先生が号令を掛けた。  次に、卓球部の部長さんらしき男子生徒がきっぷを管理しているようだ。皆にきっぷを配る。僕も彼からきっぷを受け取った。  池袋から新宿まで。新宿からは特急富士回遊3号とやらに乗る。2時間ほどで河口湖駅に到着するという。  以前、歴史研のお城巡りで松本へ行ったとき乗った特急の車両と同じもののようだった。  列車の座席では隣に座ったのは部長さんだった。2年生で、名前は羽柴さんというそうだ。  彼が話しかけて来た。 「なんか、悪いね」 「いえ…、約束しましたから」  というより、はめられたと言った方がいいけど。 「それより、卓球部は女子の比率が多いですね」 「女子は島津先生にあこがれて入ってくる人が多いからね」 「島津先生って、そんなにすごいんですか?」 「学生の頃は、全国大会の上位常連だったそうだよ。オリンピックには行けなかったみたいだけど」  そうなのか。そんな先生に卓球勝負を挑むなんて無茶もいいところだった。まあ、上杉先輩に乗せられただけだが。  羽柴先輩は僕に気を遣っているのか、結構話しかけてきてくれた。  卓球部の大会出場歴とか部の現状とか教えてくれたが、あまり興味がないので、愛想笑いしながら適当に相槌を打っていた。  愛想笑いするようになったのは、自分的には進歩したなあ。  そんなこんなで特急は河口湖駅に到着。そこからはバスに乗って移動する。  数分で目的の合宿場に到着した。  寝るための座敷部屋が男女別で2つ予約されていた。皆、荷物を部屋に置いて、少し休んでから昼食。午後から練習に入るという。  さて、僕は何をやらされるのやら。
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