雑司ヶ谷高校 執筆部
ラケット持たされる
 翌日。  卓球部の面々と僕は合宿所の食堂で朝食を取る。  朝食も終わったところで、すぐに午前中の練習を開始するが、その直前に僕は島津先生に声を掛けた。 「先生、ちょっと良いですか?」  そう言って、卓球場の端に来てもらう。 「昨日、明智さんに怒鳴られたんですが…」 「あら、それはどうして?」 「僕がここに来るきっかけになった、歴史研の合宿の温泉卓球のことで、僕が“先生の胸を触らせろ”みたいな話になっているようで、それで怒っているようです。また怒鳴られるのも嫌なので、何とかなりませんか?」 「武田君が卓球部の合宿に来ることになった経緯は、詳しく部員に話したからね」  先生、そこは、隠しといてくれよ。 「まあ、わかったわ。うまく言っておくから」 「よろしくお願いします」  先生はクルリと振り返ると、女子部員のところまで行き、女子部員を全員、卓球場の隅に集めて何やら話をする。  なにを言っているのか聞こえなかったが、うまく話してくれればいいのだけど。  そんなこんなで、練習が開始された。  僕は、まずは球拾い、ということで、球拾い用の網を持って卓球場を右往左往する。午前中は、ほぼ球拾いで終わった。  昼食を取ったあと、羽柴部長が無理難題を言い出した。 「ちょっと、ラケット貸してあげるから、“球出し”をお願いできないかな?」  昨日から練習を見ているので、“球出し”がどういうものかは、なんとなく分かるが。練習相手に球を切れ目なく繰り出す役といったところか。 「“球出し”…、ですか? 僕に出来るんでしょうか?」 「大丈夫、大丈夫」  羽柴部長は笑いながら言う。  軽いな。  そして、羽柴部長は僕の意思とは関係なく、トップスピンとか、“球出し”をやる時の注意点を説明してくる。  仕方ないので、ちょっとやってみることにした。  羽柴部長に向けて延々と球を打っていく。  3~40球ぐらい打ったところで、羽柴部長が声を掛けて来た。 「ちょっと、交代してみようか?」 「え? 僕が部長さんの球を返すんですか?」 「そうそう」  また羽柴部長は笑いながら言った。  そして、また3~40球ぐらい返したところで、羽柴部長は手を止めて言った。 「いやー、武田君、スジいいね」 「そうですか?」  こんなんで、わかるんだろうか? 「で、卓球部どう?」 「え…? 僕は、歴史研がありますから」  こういう時だけ、歴史研を言い訳に使う。 「掛け持ちも大丈夫だよ。それに、平日って歴史研あまり活動してないよね?」 「部室に集まって会合をやっていますよ」 「そう? ダべったり、スマホゲームやってるだけって聞いてるけど」  歴史研の活動内容がばれている。 「でも、運動はあまり好きではないので…」 「そうかー。でも、気が向いたらいつでも来てね」  羽柴部長はそう言うが、僕の気が向くことは無いと思う。  その後、午後の大半は、試合形式の練習をするというので球拾いもなく、のんびり見学して過ごした。
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