雑司ヶ谷高校 執筆部
“木”
 学園祭のクラスの出し物で、“白雪姫”の配役、裏方の各担当もなんとか決まり、  ホームルームの時間は、ちょうど終わりとなった。  すぐ後の休憩時間になると、毛利さんが話しかけてきた。 「ねえ、私に票入れたの、武田君でしょ?」 「そうだよ」 「私に主役なんて無理だよ」 「あはは。まあ、選ばれることはないだろうと思って、面白半分で名前書いたよ」 「意地悪」  そう言って、毛利さんはプイと横を向いた。でも、まんざらではなさそうだった。  でも、僕に決められた“木”の役って一体、何? さすがに気になったので、織田さんにどういうものか聞くことにした。彼女とは全く話したことはなかったが、何とか勇気を振り絞る。  そして、僕は立ち上がり、織田さんの席に歩み寄って声を掛けた。 「織田さん」  僕は、何やら本を読んでいる織田さんに声を掛けた。読んでいるのは台本のようだ。  織田さんは顔を上げて笑顔で答える。 「おお、武田君。何?」 「“木”の役のことなんだけれど、あれどういうの?」 「ああ、あれね。舞台の上で立ってるだけでいいから」 「セリフも無いと聞いたけど?」 「無いよ」 「その役、必要ある?」 「必要よ! 木の幹に穴をあけて、そこから顔を出してもらうから」 「はあ?!」 「学校一の有名人の“エロマンガ伯爵”が、木から顔出しってのはバカ受け間違いなしだわ」 「えええ?! 舞台ってそんな笑いを取る感じで良いいの?」 「いいの、いいの。武田君のおかげで舞台前に話題になれば観客も増えるでしょ? 観客も最初は武田君を目当てで見に来ても、私の演技で魅了してみせるわ」  すごい自信だな。さすが自分から目立ちたくてクラスの出し物を演劇にしようと、根回しまでやったことはある。 「台本を渡しておくわ。明後日から、台本の読み合わせをするんだけど、参加してね」 「え? 自分、セリフ無いよね」 「一応、舞台の流れを知っておいてほしいから」  そう言うと、机の中から別の新しい台本を取り出して僕に手渡した。  僕はそれを受け取るが、セリフも無いので台本に目を通す気は全く無いけど。  読み合わせは、しょうがないなあ。まあ、暇だし、セリフも覚える必要も無くて、立ち会うだけならちょっと付き合うか。 「わかった、明後日の放課後ね」  そう言って僕は自分の席に戻った。  すると、隣から毛利さんが再び話しかけてきた 「それ、台本?」 「うん。なんか、読み合わせにも出てくれと言われたよ」 「ちょっと見せて」  僕は台本を手渡した。 「ふーん」  毛利さんは台本をペラペラとめくって目を通した。 「どう?」  台本を読む気のない僕は、毛利さんが代わりに読んでくれたので尋ねた。 「ディズニー映画の通りみたいね」 「ああ、そう」  ということなら、ギャグにアレンジしているとかは無いようだ。知らんけど。 “木”の役だから、どうアレンジされてようが、さほど関係ないだろう。  毛利さんは台本を僕に返した。  しかし、“学校一の有名人”とは、不名誉なあだ名はまだ広まったままか…。
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