雑司ヶ谷高校 執筆部
読み合わせ
 そして、台本の読み合わせの日。  放課後に舞台で役をもらったクラスメートたちが教室に残った。  白雪姫役の織田雪乃、王子様役の足利悠斗。他に王女役、小人役の7人、王女の家来、声のみの出演の鏡役、話をつなぐためのナレーション役。  最後に、“木”の役の僕だ。総勢14人。  読み合わせが始まる。  僕はセリフが無いので、読み合わせを聞いているだけの参加。  そして、読み合わせを通して聞いていた感想は…、  織田さんの事前根回しのせいで、悠斗以外の役は、ほとんど決めてようだったので、皆セリフは完璧だ。  白雪姫はさすがセリフが多い。そして、織田さんの演技力はすごい、さすが演劇部。素人の僕でも違いわかる。発声量もすごくて、舞台となる体育館でも後ろまで声が通りそうだった。  王子様は後半に少し出るだけなので、セリフはほとんどない。悠斗、おいしい役だな。セリフを今はあまり覚えていない様だったが、さほど多くないので、本番までは問題ないだろう。  他のメンバーは、演劇部でもないので、織田さんと比べると演技はだいぶ劣るが、まあこんなもんだろう。  読み合わせも終わり、出演者の方は、大きな問題ないようだった。  聞くと、衣装や小道具、大道具も決められた生徒たちが、すでに作り始めているそうだ。  ということで、裏方も問題なさそうだ。  それもこれも、織田さんが夏休みの頃から事前に根回ししていた成果だろう。  もし、クラスの出し物が演劇にならなかったらどうしたんだろうか? 投票も僅差だったしな。すべて無駄になったのに。  読み合わせが終わって、織田さんが僕に話しかけてきた。 「どう、感想は?」 「織田さん、演技力がすごいね」 「まあ、当然ね」 「武田君も頑張ってね」 “木”の役をどう頑張るんだ?  そして、悠斗が声を掛けてきた。 「やあ、純也。俺の演技どうだった?」 「まあ、いいんじゃないか? それにしても、セリフが少なくておいしい役だな」 「それもあるから、王子様を引き受けたんだけどね」  悠斗が王子様役にするのは、出し物が決まる前に狙っていたようだったしな。  最後に織田さんが全員に伝える。 「じゃあ、次は来週の水曜日に集まって、本番と同じようにやるからね!」  と言うわけで、本番の学園祭まで、あと2週間しかないが、僕らのクラスの出し物の準備は順調に進んでいた。  帰り道、悠斗と校門まで一緒に帰る。  悠斗がいろいろ話してくる。 「良い役をもらえて、これで俺も純也と同じように校内でも有名になれるかな?」  何? 悠斗は学校で有名になりたいのか? 「クラスの出し物ぐらいで有名になれるわけないだろ」  僕はあきれたように言った。 「そうか…、まあ、そうだよな」 「悠斗はサッカーを頑張ればいいんじゃないか?」 「それも、そうだね。サッカーの練習試合が日曜にあるんだよ。そこで、またレギュラーで出させてもらえるから、頑張らないとね」  悠斗は悠斗の得意なサッカーで頑張れば良いと思う。そっちの方が悠斗にはあっているし、ひょっとしたら将来はサッカー選手で有名になれるかもな、と思った。  僕は得意なことは無いが、とりあえずは、セリフのない“木”の役を頑張ろう。
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