雑司ヶ谷高校 執筆部
インスパイア
 演劇で王子様役を引き受けた後、僕と毛利さんは移動して、歴史研の部室に到着した。  部室では伊達先輩と上杉先輩がいつもの様に紙パックのジュースを飲んで、椅子に座わりスマホをいじりながら駄弁ったりして、くつろいでいた。  僕と毛利さんも椅子に座る。  上杉先輩が僕の顔をまじまじと見つめると話しかけてきた。 「いつも以上に浮かない顔をしているけど、どうかした?」  上杉先輩、鋭いな。 「クラスの出し物で、王子様をやることになってしまって」 「ええ~? 王子様~? キミが~?」  上杉先輩は腹を抱えて笑う。  そんなに可笑しいか? 「衣装を着たら、王子様というよりエロ伯爵だね!」  続いて、伊達先輩が尋ねる。 「白雪姫と言えば、ラストで王子様がキスして、目覚めるんだけど、本当にキスするの?」  そこは皆、気になるだろう。僕も読み合わせする前には、気になっていた。 「台本によると、キスしそうなところでライトを消して舞台上を暗転して、再びライトが点いたら白雪姫は目覚めていた、という演出で本当にキスはしません」 「なんか、エロ伯爵が白雪姫を襲う絵図になるね」  上杉先輩が笑いながら変なことを言う。 「じゃあ、皆んな揃ったから」  伊達先輩が強引に本題に入った。 「今日から学園祭の展示を作って行きましょう」  学園祭では“占いメイドカフェ”をやるのだが教室の後ろの壁に歴史研の展示をやることになっている。展示内容は、これまでに回ったお城の写真と解説。  伊達先輩が、部室の端を指さした。指の先には、いつの間にか用意した巻いてある大きな紙があった。 「あの紙にマジックで書いて、写真も印刷して貼り付けます。内容は去年までの展示が写真で残してあるから参考にしてね」  面倒だな。  毎年、同じものを使い回せばいいと思うが、部の活動記録を発表しないと学校側から部活として不十分とされる、というようなことを言っていたな。  それに、伝統的にやっていることでもあるし、折角、旅費をカンパしてくれるOB、OGの方々にも面目が立たない。  という事情で、面倒だが仕方ない、やるしかない。  1人で2城。僕らは4人だから8つのお城の展示となる。  伊達先輩は、昨年までの展示の写真が載っている小さなアルバムを机の上に置いた。  僕はそれを手に取ってペラペラとめくる。  数年分の展示の写真が写っていた。  去年は、僕らが巡っているお城とは別のお城の展示だったので、一昨年の展示を見た。今年と同じお城を巡ったようで、二条城、名古屋城、大阪城などの展示の写真があった。  よし。一昨年のやつから、文章をパクって……、いやいや、インスパイアされて作るとしよう。 「じゃあ、私は生徒会の仕事があるので、今日は行くわね」  伊達先輩はそう言うと、少々急ぐように、部室を後にした。  僕は伊達先輩の後姿を見送ると言う。 「伊達先輩、忙しそうですね。伊達先輩が作る展示の分は僕らがやってあげた方が良いのでは?」 「へー。キミ、優しいね。じゃ、よろしく」  上杉先輩はスマホを見ながら目線をそらさずに言う。しかも、感情がこもってない。 「僕がやるんですか?」 「言い出しっぺでしょ?」  言うんじゃなかった。  ということで、仕方なく展示を作る作業に取り掛かった。
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