雑司ヶ谷高校 執筆部
ゲネリハ
 翌日の水曜日。  放課後にクラスの出し物の“白雪姫”の本番さながらの練習が行われる。  いわゆる、“ゲネリハ” というやつだ。場所も本番同様、体育館のステージが使えるとのこと。  大道具、小道具も完成し、準備されて既に、各担当によって体育館へ移動済みだそうだ。  出演者は、全員が一旦教室に残る。  衣装が完成しているとのことで、クラスで衣装作製の担当していた女子から衣装が渡された。  渡された衣装を手に教室で男女時間をずらして着替えてみる。  僕は“王子様”の衣装だ。昨日は執事だったが、なにやら立場の違いが忙しないと感じた。  教室は鏡が無いので、皆、トイレの洗面台まで向かう。  そして、洗面台の鏡で自分の姿を整えて、確認する。  衣装の作りはしっかりしていて、まあまあ、良い感じ? かな。  衣装担当の腕がいいのだな。  衣装担当によると、ディズニーアニメ映画の衣装を参考にしたとのことだが、少々地味な感じがした。そして、マントが邪魔だ。  教室へ戻る。  織田さんの衣装の白雪姫も良く似合っていた。  そして、王女役、小人役、などもそれぞれが衣装を着たまま体育館に向かう。  体育館では卓球部とバスケ部が練習をしていた。  卓球部の部長である羽柴先輩が僕を見つけて声を掛けてきた。 「誰かと思えば、武田君じゃあないか! 何だい、その恰好は?」 「これは、“白雪姫”の王子様です」 「“白雪姫”?」 「ええ、学園祭のクラスの出し物です」  羽柴先輩はもう一度僕の姿をじっくり見て言う。 「へー。なかなかいいね」 「これからステージで、ゲネリハをやるんですよ」 「じゃあ、“白雪姫”を見れるということだね」 「恥ずかしいので、先輩たちは卓球の練習をしててくださいよ」  僕は、そう言ってちょっと笑ってから、ステージに登った。  結局、卓球部とバスケ部の数名が僕らのゲネリハを見学するようだ。なんか、恥ずかしいな。  練習を続けている者もいるが、その中には、僕や織田さんの天敵、明智さんの姿が見えた。  彼女は演劇では担当の役も就いてなく、織田さんとの対立もあるのでこちらには興味ないだろう。  そんなわけで、ゲネリハを開始。  照明、といっても体育館に設置されている単純な照明なので、点けるか消すかしか出ないそうだ。それでも舞台転換などでタイミングよくON/OFFしていた。  音響担当もBGMやSEをタイミングよく流す。  大道具担当も背景のパネルの転換のスムーズにこなす  そんなわけで、ラストの実際はキスしないキスシーンまで終わった。  出来栄えは完璧と言っていいだろう。  見学者からも拍手があった。  途中、織田さんからは、立ち位置の指摘があったが、概ね満足なようだった。 「じゃあ、土曜日の本番、頑張りましょう!」  最後に皆を鼓舞して、教室に戻ることになった。  帰り際、再び卓球部の羽柴部長が話しかけてきた。 「なかなか良かったよ」 「ありがとうございます」 「キスは、しないんだね」 「はい。キスしそうなところでライトを消して舞台上を暗転して、再びライトが点いたら白雪姫は目覚めていた、という演出で本当にキスはしません。本番当日は、窓もカーテンで閉め切る予定だそうで、体育館の中は真っ暗になりますから、そう言う演出が可能だそうです」 「なるほど、そう言うことか」 「ところで、卓球部の出し物はなんですか?」 「屋台の焼きそば屋だよ。良かったら食べに来てよ」 「わかりました。行きます」 「あと、良かったら練習にも来てね」  夏休みに卓球部の合宿に参加させられた時にも、勧誘されたな。まだ言うか。 「ははは…」  僕は、笑ってごまかした。  そして、体育館を後にした。
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