雑司ヶ谷高校 執筆部
天変地異
 学園祭1日目が終了した。  僕は男子トイレの個室で執事の衣装を制服に着替えて、帰路に着いた。  帰宅すると、居間のソファで妹の美咲がくつろぎながらTVのアニメを見ていた。 「お兄ちゃん、お帰り」 「ただいま。何、見てるんだ?」 「最近始まったアニメ。『頼まれて魔法少女になったら中央線沿線で戦う羽目になりました』だって」  長いタイトルだなあ。  タイトルが長いのは、最近の流行りか。まあ、自分はアニメにはさほど興味が無い。  なので、自分の部屋に行こうとして、居間を出ようとすると、妹が話しかけてきた。 「今日のお兄ちゃんは大活躍だったね」 「何が?」 「“白雪姫”のステージでキスしたり、オムライス作ったり」 「キスの件は、あれは最初、台本には本当にはキスする予定ではなくてだな、直前に変わったのを聞かされておらず、不意打ち食らったみたいなもんだったんだよ」  思いもよらずキスの件に触れられて、慌てて思わず早口になってしまった。 「そうか、だから、キスの後、アホ面晒してたのね」  そうか、アホ面だったか…。 「まあ、初めてだったからな」  しまった、妹にわざわざ初めてのキスとか言う必要はなかったか…? 「え? お兄ちゃん、毛利さんとキスしたんじゃあ?」 「は? なんで?」 「この前、私がジュース出しに行った時に、お取込み中のようだったので」  思い出したぞ、毛利さんにキスしようしたところを美咲に邪魔されたんだった。 「あの時は、良いところでお前が入ってきたから、台無しになったんだよ」 「そうだったんだ。あはは、ゴメン、ゴメン」  美咲は笑ってごまかす。  僕は軽くため息をついた。やれやれ。 「そうだ。美咲、これあげるよ」  僕は、さっき占いメイドカフェの手芸部物販で購入した犬のぬいぐるみを鞄から取り出して手渡した。 「ええっ?! どうしたの?!」  美咲が想定以上に驚いたので、こっちも驚いた。 「どうしたって…。そんなに驚くか?」 「ドケチのお兄ちゃんがモノをくれるなんて、天変地異の前触れか…。そうか、ステージで初キスをしたショックでおかしくなったとか?」 「なってない」 「でも、お兄ちゃんのケチが治るんだったら、いくらでもキスして来ていいよ」  妹から無制限キスの許可が出たな。まあ、もうキスする相手もいないけどな。  毛利さんは伊達先輩と付き合っているようだし。  セカンドキスの可能性は、かなり遠のいている。  いや、ステージ上のキスはノーカンだった。ということで、まだ、ファーストキスだぞ。  …………。    なんか虚しくなってきた。  明日もあるし、晩ご飯食ったら、風呂入って、漫研がギリギリを追及したという同人誌を読んで、早く寝よう。
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