雑司ヶ谷高校 執筆部
彼氏、お借りします
 昼休み。  僕はいつもの様に、毛利さんと机を合わせて一緒に弁当を食べようと思っていたところ、織田さんに声を掛けられた。 「ねえ、武田君! 一緒に食堂でお昼食べない?」  僕は突然声を掛けられたのと、想定外の提案内容にちょっと戸惑った。 「あ、いや……、僕は弁当だから」 「食堂で食べればいいじゃん」 「いや、でも……」  逡巡する僕を見た織田さんは、ニヤリと笑って毛利さんに向かって言い放った。 「、お借りするね」  そう言うと、織田さんは僕の腕をつかんで引っ張って行く。 「ちょ、ちょ、ちょっと」  結局、半ば強引に食堂まで連れてこられた。  僕は普段は弁当なので食堂にはほとんど来ないので知らなかったが、昼休みは結構な賑わいだった。  織田さんは適当に空いている席を見つけて僕を座らせた。 「お昼買って来るから、待ってて」  しょうがないな。  僕は、弁当を目の前にお預けを食らう。  しばらく待つと、織田さんが定食が乗ったトレイを持って戻って来た。そして、織田さんと一緒にクラスの陽キャ友達2人もトレイを手にやって来た。  織田さんは僕の隣に座り、陽キャ友達2人は対面に座る。  織田さんが話しかけて来る。 「武田君、食堂来たことないの?」 「食堂自体にはあるけど、昼食の時間帯にはないかな」 「そうなんだ。じゃあ定食なんかも食べたことないんだね」 「まあ、そうだね」  僕は弁当箱を開けた。 「ちょっと、その卵焼き、私の鶏カラと交換してよ」  織田さんはそう言い、僕の返事を待たずに弁当箱の中の卵焼きと鶏カラをトレードした。  あまりにも素早いので、僕はそれを見ているだけだった。  まあ、良いか、鶏カラも美味しそうだし。  そして、その鶏カラを一口頬張る。 「これ、美味しいね」  僕は素直な感想を言う。 「でしょ? それに、最近、定食がそれぞれ20~30円ほど安くなったから、ちょっと助かる」 「へー、そうなんだ」  陽キャ友達の一人が僕と織田さんのやり取りを見て、織田さんに尋ねた。 「何? 武田が新しい男なの?」 「違う、違う。学園祭で舞台に立った仲だから、たまには一緒にお昼でも食べたいなと思って」  織田さんは僕の方を向いて話を続ける。 「それに、武田君って毛利さんと付き合っているんでしょ?」 「え?! いや、付き合ってないよ」  僕は驚いて、織田さんに向き直った。 「そうなんだ。いつも一緒に居るし、仲良さそうだから、付き合ってるのかと思った」 「いやいやいやいや。彼女とは同じ部活の仲間なだけだよ。それに、彼女には別に好きな人がいるみたいだし」  僕は、書庫での毛利さんと伊達先輩のキスシーンを思い出して言った。 「へー、そーなんだ。部活って、歴史研究部だよね?」 「そうだよ」 「学園祭でメイドカフェやってたよね? 女子だらけじゃない?」 「あれは、手芸部と占い研と合同でやったから。ほとんど手芸部の人たちだよ。だから、あんな状態だったんだ」 「あ、そう。あの中に彼女がいるとか?」 「いないよ。僕は誰とも付き合ってない」 「そーなんだ」 「武田君、気を付けなよ」  陽キャ友達が言う。 「雪乃って、手が早いからね」 「はあ…」  返答に困る。織田さんが遊んでいる噂は耳にしているが、彼女が僕を狙うとか、そんなことは無いだろうと思った。 「雪乃、前の彼氏とは2週間続いたんだっけ?」 「3週間だよ」 「2週も3週もあまり変わらねーよ」  などと、織田さんと陽キャ友達2人は会話しながら昼食をとる。  陰キャな僕は、陽キャたちの会話に割り込めるはずもなく、黙々と弁当を食べる。  時折、織田さんから入るフリに、僕は苦笑しながらなんとか答える、というような針のムシロ状態の昼休みを過ごした。  昼食を食べ終わり、昼休みも終わる頃、僕らは教室に戻り席に着いた。  隣の席の毛利さんが話しかけて来る。 「織田さんと、何の話してたの?」 「いや、世間話だよ。でも、織田さんたちの会話には中々入れないし、陽キャの人たちは慣れないので何かどっと疲れた」 「ふーん」  毛利さん、ちょっと不機嫌そうだ。  何故、不機嫌になる?  僕は“面倒くさいな”と思いつつ、気持ちを切り替えて午後の授業に臨む。
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