雑司ヶ谷高校 執筆部
デートのお誘い
 木曜日は何事もなく平穏に過ぎ金曜日となった。  今日で中間試験の日程はすべて終わった。時間は、まだお昼だ。  僕の試験の出来はと言えば、いつも通りか、少しマシだった、という程度だ。 「やっと終わったね」  隣の席の毛利さんが話しかけて来た。 「中間試験、全体的に難しくなかった?」 「そうかな? いつも通りじゃない?」  僕は立ち上がりながら答えた。 「でも、疲れたよ。週末は家でゴロゴロするよ」  そこへ、織田さんが近づいて話しかけてきた。 「武田君、この後、暇?」 「まあ、暇だけど……。なんで?」 「この前、伊達会長を紹介してくれたお礼がしたいって言ったでしょ? だから、ご飯でもどうかなと思って。ファミレスぐらいになるけど、奢るよ」  織田さんは、そう言って僕の腕をつかんだ。 「そうだな…、いいよ」  陽キャである織田さんのグイグイくる感じに、戸惑いっぱなしだ。  まあ、せっかくなので、奢られることにする。 「じゃあ、またね」  僕は毛利さんに挨拶をして教室を出た。  僕と織田さんは、雑司が谷高校を後にして、雑司が谷駅に向かう。  そして、メトロに乗って1駅の池袋まで。  池袋の駅チカのファミレスに入る。最近、ここには、良く来るな。  ランチとドリンクバーを注文し、ドリンクを取りに行って戻る。  そして、僕らは世間話をする。まあ、織田さんが一方的に話しかけて来るんだが。 「試験、どうだった?」 「まあ、何とか、って感じ」 「私も教えてもらった分は、できたわ」 「それは、よかった」 「武田君って、成績は中の上ぐらいなんだよね。すごいよね」 「中の上は、全然すごくないでしょ?」 「私、あまり成績良くないから、私と比べるとすごいのよ」 「僕は要領が悪いから、勉強しとかないとすぐ成績が落ちるんだよ。だから、なんとか中の上を維持してる感じ。最近はたまに、伊達先輩に勉強を教えてもらっているから、ちょっと上がってるけど」 「会長にも勉強教えてもらってるんだ?」 「そうだよ。織田さんも頼めば、教えてもらえるんじゃない?」 「会長ねぇ……。そうだ! 今後も武田君が教えてよ」 「僕が?! 今後も?!」 「良いでしょ?」 「まあ、時間があるときは、良いけど……。僕より、伊達先輩に教えてらった方がいいのでは?」 「やっぱり、会長だとちょっと気を遣うわ」  織田さんが気を遣う? それは、嘘だろ? 「だから武田君、お願い」 「まあ、いいけど」  織田さんは、僕の返事を聞くと満足そうにしている。そして、話題を変えた。 「ところで、前に歴史研でお城巡りするって聞いたけど、毎週やってるの?」 「いや、月に1、2回だよ」 「それ以外の週末って何してるの?」 「大抵は家でゴロゴロしてるな…。織田さんは?」 「2学期に入ってからは、部の練習があったり、買い物に出かけたりかなあ。学園祭までは部が結構忙しくて、夏休みと9月は、学園祭の出し物の練習をしていたし。あと、映画研究部に依頼されてオリジナルのショートムービーにも出演したよ。夏休みはその撮影で結構つぶれた。それで、学園祭が終わるまでは結構忙しかったんだけど、ちょっと休憩ということで11月ぐらいまで、少しペースを落としてるの。でも、また冬公演もあるし、12月と1月にも映研の撮影も入る予定。だから11月以降は、かなり忙しいんだよね」 「それは、大変だね。そういえば、学園祭のショートムービー、最初のほうだけ見たよ」 「ああ、それ、私らの出演の前だったもんね。もうすぐ編集が出来上がるみたいだから、YouTubeにアップしたら教えるから全部見てね」 「あ、ああ…」  続きも少し気になっていたから、ちょうど良いかな。 「そう言えば、『オセロ』も見せてあげるって言ったよね?」 『オセロ』? 確か演劇部の学園祭の出し物だったか。そっちはあまり興味なかったけど。 「う、うん」  と、とりあえず答えた。  そこへ、注文した食事をウエイトレスが持って来た。  僕らはそれを食べ始める。  織田さんは、食べながら話を続ける。 「演劇部は、映研に撮影と編集をお願いしているのだけど、そのバーターで映研のムービーに出演してあげてるのよ。私たちの“白雪姫”の編集もお願いしていて、もうすぐ出来上がるって聞いてる。出来上がったら、教える」 「あ、ああ…」  実のところ、“白雪姫”も、あまり見たくない。  織田さんとのキスの後、アホ面晒していたというからなあ。黒歴史だよ。 「今まで舞台は、あまり見たことないでしょ?」 「ないよ…。あ、いや、この前、東池の学園祭で『ロミオとジュリエット』を見た」 「どうだった?」 「良かったよ。でも、織田さんのほうが演技は上手いと思った」 「ま、当然ね」  相変わらずの自信家だな。  織田さんは、さらに尋ねて来る。 「映画とかドラマも見ないの?」  映画か。  東池の学園祭の映画研究部のカフェで2本見たな。  ちゃんとした映画館には、6月に伊達先輩と一緒に行ったきりだ。都合2回3作品。  そして、伊達先輩に(頬に)キスされた思い出が蘇って、ちょっと動揺した。  その動揺が、バレないように答える。 「今年は3つだけ見たかな……。ドラマはネット配信でたまに見る程度だね。TVは見ない」 「そう。試験も終わったし、明日、ヒマだったら映画見に行かない?」 「え?」  これ、デートという認識でいいよな?  いきなりどういうことだ?  まさか、デートに誘われるとは。僕は再び動揺する。 「まあ……、ヒマだけど」 「じゃあ、決まりね」  僕は織田さんにデートに誘われた動揺を隠しつつ、明日の集合の時間と場所を決めた。  そして、その後も世間話をして食事が終わるとファミレスを後にし、帰路についた。
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