雑司ヶ谷高校 執筆部
支持率
 水曜日。  今日は雨だが、いつもの様に登校する。  学校では、僕と雪乃が付き合っているという噂が、確定事項として学校中に広まりつつあった。  多分、昨日の取材を基に、小梁川さんから情報が片倉部長に行ってツイッターで流れたのだろう。  あまり、あのアカウントは見たくないので、見ないけど。  あっという間に放課後。  僕と毛利さんは歴史研の部室に向かう。  いつもの様に、伊達先輩と上杉先輩が部屋でまったりとしている。 「いらっしゃい」 「来たね!」 「「こんにちは」」  僕らはいつもの挨拶を交わす。  僕と毛利さんが椅子に座ると、早速、伊達先輩が話しかけてきた。 「月曜日は聞けなかったけど、武田君は織田さんと付き合っているのね」 「はい」  当然、伊達先輩たちにも情報が耳に入っているだろう。  ツイッターにも流れているだろうし。 「いいなー」  上杉先輩が羨ましがる。 「上杉先輩も、すぐにイケメンの彼氏ができますよ」  僕は適当なことを言った。 「おためごかしは、いいんだよ!」  怒られた。 「それにしても、キミを彼氏にするなんて、織田さんって男なら誰でもいいんだね」  上杉先輩、とても失礼だな。  僕は言い返す。 「彼女には、僕の隠れた魅力を見抜ける目があるってことですよ」 「キミの隠れた魅力ってなに?」  僕の魅力って何だろう? 「えっ? ええと…、心がイケメンなんですよ」 「心がイケメンって何よ? わかんない」  そう言えば雪乃は、お台場デートした時に『圧倒的に優しい』とか言ってたな。 「僕は、"優しい”、ってことですよ」 「キミは優しいんじゃなくて、"お人好し”で"優柔不断”なの。勘違いしちゃだめだよ」  うるさいなあ。 「私は、優しいと思ってるよ」  横から毛利さんがアシストしてきた。  予想外のアシストにちょっと驚いたが、礼を言っておく。 「あ、ありがとう」 「話は変わるけど、例の抵抗勢力の件」  と、伊達先輩。 「新聞部からの情報で、北条の取り巻き以外にも将棋部も協力するらしいのよ」 「それ、昨日、小梁川さんから聞きました。ガリガリ君の領収書がどうとか」 「将棋って、お尻からビームを出す、あの競技でしょ?」  上杉先輩がわけのわからないことを言いだした。 「何ですかそれ? 違いますよ」  もう、上杉先輩には、まともに取り合わない。  伊達先輩は話を続ける。 「最近、新聞部が私の生徒会長としての支持率を調査したのよ。すると55%程度しかないのよ」 「えっ? 伊達先輩、選挙の時は7割近い圧倒的得票があったと思うんですが」 「ええ、あったわ。だから単純計算で15%の支持が離れたことになるわね。詳しく分析すると、女子の支持率は選挙当時から増えて8割超えているんだけど、男子の支持率は激減して2~3割程度ということらしいの。これは危機的ね」  まあ、選挙の時、男子は僕のことに面白がって投票しただけだから、それは伊達先輩への支持じゃあないけどね。 「これを放置しておくと将棋部以外にも同調する部とかも出て来るかもしれないから、何とかしたいのよ。だから、やっぱり男子に人気がある武田君に是非、副会長に就任をお願いしたいわ」 「それは、金曜日に話し合うことでいいですよね?」 「ええ、それで、いいのだけれど。生徒会と私の状況を知っておいてほしくて、話したのよ」 「状況はわかりました。僕がもし副会長になったら、男子の支持率が上がると思いますか?」 「上がるきっかけとしては、いいと思うのよ。今でも人気があるでしょ? イケメン人気投票で5位だったし」  あれも男子が面白がって大量投票したということらしいのだが、あの人気投票の結果を信じて、当てにしていいのだろうか?  僕が副会長になっただけで、支持率が上がって、抵抗勢力が何とかなるとも思えないが。  まあ、正直なところ生徒会がどうなろうが、僕には関係の無いことだ。  しかし、今回は要望リストを充実させて、伊達先輩たちに飲ませることで、いろいろ僕の溜飲が下がることを期待している。  抵抗勢力の話はここで、一旦終了した。  上杉先輩は別の話を振って来た。 「キミ、将棋のルール知ってる?」 「少しなら。小学校の時、父親とやったことがある程度です。駒の動かし方とか、その程度ですが」 「今度、教えてよ。最近、将棋のアニメもやってたし、興味出た」  そのアニメ、タイトルなんだっけ? 『それでも玉は逃げ延びる』だっけ? 「良いですよ。明日、将棋盤と駒、持ってきます」 「おっ! よろしくね」  そんなこんなで、僕らはその後、下校時間まで部室で駄弁ったりして、過ごした。
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