雑司ヶ谷高校 執筆部
道場破り
 球技大会の後、着替えを済ませて帰宅しようと思ったが、歴史研の部室に寄ることにした。  一昨日、伊達先輩と上杉先輩が見舞いに来てくれたから、改めて礼だけでもしておこうかと思ったのだ。  ちなみに今日は、毛利さんは図書委員の仕事で図書室に居る。  そんなわけで、1人で校舎の4階、端の端、理科準備室まで。  扉を開けると、誰もいない…。  しばらく椅子に座って待っていると伊達先輩と上杉先輩がやって来た。 「あら、こんにちは」  伊達先輩が挨拶をする。 「こんにちは」 「もう体調は大丈夫なの?」  伊達先輩が心配そうに尋ねた。 「まあ、なんとか……。一昨日は、お見舞いに来てくれて、ありがとうございました」 「義理堅いのね。それぐらい別に良いのよ、大事な部活の仲間じゃない? ところで、今日は球技大会は出たんでしょ?」 「ええ、卓球をやってきました。先輩方は?」 「私たちはソフトボールだったのよ」 「おかげで疲れたよー」  上杉先輩が自分で肩をもみながら言う。  伊達先輩と上杉先輩も椅子に座った。  そして、伊達先輩は、おもむろにカバンからポテチの袋を取り出して開けて言う。 「武田君も食べて」 「ありがとうございます」  ポテチを数枚頂いた。  僕は、生徒会に対しての北条先輩の妨害が、その後あったのかどうか気になって尋ねた。 「ところで、抵抗勢力は何か動きありませんでしたか?」 「無いわ…。随分、生徒会を気に掛けるのね」  伊達先輩は不思議そうに言う。 「え? ええ、まあ…」  この場は誤魔化す。 「このところ、抵抗勢力の動きは無いわ」 「そうですか…」  それにしても、北条先輩、何もしてこないとは逆に不気味だ。  幸いなことに今日は僕も顔を合わせなかったし、織田さんにも何かしてくるようなことは、今のところないようだし…。 「伊達先輩と片倉部長が、何か手を打つって聞きましたけど?」 「ええ、考えはあるわ。実行はこれからよ。でも、週の初めに片倉君が別で急ぎで、やることがあるって言ってきて、待ってる状況なのよ」 「何をやってるんですか?」 「聞いてないわ」 「そうですか…」  片倉部長、何をやってるんだろう。  まあ、ロクなことじゃないと思うけど。  僕と伊達先輩の会話が落ち着いたところで、上杉先輩が尋ねてきた。 「将棋やる?」 「やりますか」  僕は誘いに乗った。気晴らしにもなる。  それにしても、上杉先輩、アニメの影響ですっかり将棋にはまってしまったな。  まあ、僕にすら全然勝てないけど。 「今度さあ」  将棋を指しながら、上杉先輩が言う。 「将棋部に道場破りに行きたいね」 「何、言ってるんですか? 僕らのレベルだと、返り討ちですよ」 「そっかー……。ところで、キミは将棋部に友達いないの?」 「僕、友達居ないの知ってますよね?」 「ダメじゃん」 「いや、上杉先輩も居ないじゃないですか?」 「そうだったね」 「伊達先輩は将棋部に知り合いは居ないんですか?」  僕は振り向いて、スマホをいじっている伊達先輩に尋ねた。 「私、将棋部とはガリガリ君の件で仲が良くないから」  伊達先輩は寂しそうに答えた。 「そうでした…」  まあ、道場破りなんてやることもないし、いいか…。  伊達先輩が話を続ける。 「そう言えば、将棋部にすごく強い子が居るって聞いたわ。なんでもプロ棋士の弟子で、彼女も女流棋士を目指しているとか」 「へー」  興味ない。  そんな感じで、今日もダラダラと部室で過ごして、下校時間になったら解散となった。  今日は、球技大会に参加し、気分転換になったせいか、だいぶ元気になったような気がする。  週末何もなければ、来週は普通に学校に行けそうな気がする。  しかし、今週は結局、3日休んだので、勉強が遅れたことが気になっていた。  どうしようかと考えた末、毛利さんに教えてもらおうと考えた。  勉強を教えてもらうだけだから、浮気じゃないよね…?  というわけで、毛利さんにLINEでメッセージを送る。 『明日、時間ある?』 『武田君からLINE来るの珍しいね』  僕は基本、LINEをほとんどしない。  ほぼ毎日やり取りしている雪乃は、例外中の例外だ。 『相談したいことがあって』 『何?』 『休んだ分の勉強を教えてくれないかな?』 『いいよ』 『じゃあ、明日10時に区の図書館でどう?』 『いいけど。武田君の家じゃあだめなの?』 『ちょっと、事情があってね』  雪乃以外の女子を部屋に入れると、妹がうるさい。しかも盗み聞きされるし。 『わかった』  毛利さんの了承を得たので、僕は明日の勉強の準備に取り掛かった。
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