翌日。登校した。
今日も北条先輩に顔を合わせることもなく、無事平穏な一日が過ぎた。
放課後は、いつものように部室でダラダラしている。
伊達先輩はポテチをつまみながらスマホいじり。
毛利さんは読書。
僕と上杉先輩は将棋をやっている。
「そういえば」
僕は、対局中に上杉先輩に話しかけた。
「この前、将棋部に行ってきましたよ」
「へー。誰かと指してきたの?」
「ええ、成田さんという、なんでも、女流棋士目指しているという人と指してきました」
「強かった?」
「滅茶苦茶強かったです」
「そうかー」
「上杉先輩も女流棋士目指したら、どうですか?」
僕は適当なことを言う。
「え? 目指さないよ」
「そうですか」
想定内の回答。僕は続けて質問をする。
「上杉先輩は、何か目指しているものとかあるんですか?」
「目指しているものって?」
「例えば、ええっと…、野球選手とか、医師とか、ユーチューバーとか」
「なんで、例えが野球選手と医師とユーチューバーなのよ?」
「いや、小学生男子のなりたい職業の上位らしいので」
「私は小学生男子か?!」
上杉先輩はそう言って、強めに将棋の駒を盤に打ち付けた。
「小学生の低学年ぐらいまでだと、お嫁さんになりたいと思っていたけど」
「そうですか」
「まあ、今でも結婚はしたいかな。ただし、金持ちイケメンに限る」
「はあ…」
「相手の貯金残高がわかる、スカウターみたいなのがあればいいのに…」
「そんなのあるわけないでしょ?」
そこへ、伊達先輩が会話に割り込んで来た。
「現在の貯金残高より、相手の生涯所得がわかればいいのにね」
「でも、それだと、年取ってから金持ちになる、っていうケースもあるわけじゃん?」
上杉先輩が反論する。
「爺さんになってから金持ちになられてもなー。結婚相手には若いうちに金持ちになってもらわないと。まあ、元々、金持ちがベストだけど」
「それも、そうね…。そうすると、現在の貯金残高と生涯所得の両方がわかるスカウターがあればいいのかしら?」
「それだ!」
上杉先輩が声を上げて、再び強めに将棋の駒を盤に打ち付けた。
最悪な会話だな、と僕は心の中でつぶやく。
「毛利ちゃんはどう思う?」
上杉先輩は唐突に毛利さんに話を振った。
毛利さんは持っている本から視線を上げて答える。
「え? えーと、私は、楽しく暮らせれば相手はお金持ちでなくてもいいです」
「ダメだよ!」
上杉先輩が大声を上げた。
「現実を見ないと。男は金だよ! 貧乏人と結婚すると一生苦労するよ!」
「はあ…」
毛利さんは突っ込まれて回答に困っているようだ。
そして、一生、貧乏人の可能性がある僕は、この会話を聞こえないふりをした。
一瞬、部室が沈黙に包まれたが、伊達先輩が話題を変えた。
「週末の土曜日にお城巡りしようと思うのだけど、どうかしら?」
「場所はどこですか?」
僕は尋ねた。
「千葉県の佐倉城よ」
「1つだけですか?」
「そうよ」
「ということは日帰りですね?」
「そうね」
「じゃあ…、行きます」
上杉先輩も毛利さんもOKということで、いつもの様に全員参加で行くことになった。