雑司ヶ谷高校 執筆部
奴隷生活2日目
 翌日。  放課後、仕方ないので部室に行く。  ちなみに毛利さんは図書委員の仕事で図書室に行ってしまった。  1人で校舎の4階、端の端、理科準備室まで。  扉を開けると、いつもの様に伊達先輩と上杉先輩が居た。 「来たね」 「いらっしゃい」 「こんにちは」  いつもの挨拶を交わす。  僕は、今日もマッサージをやらされるのかなと思いつつ、椅子に座った。 「で、今日も揉みますか?」 「今日は、もういいよ」 「じゃあ、何をやらされるんでしょう?」 「フッフッフッ」  上杉先輩がニヤつきながら、机の上に置いてあるピンク色の首輪とリードを指さした。  僕はそれを見て驚いた。 「えっ?! まさか…」 「そのまさかよ」  上杉先輩は首輪とリードを取り上げて近づいて来る。 「そんなのどこで手に入れたんですか?」 「ペットショップで普通に売ってるでしょ?」 「わざわざ買って来たんですか?」 「そうだよ。昨日、やろうと思ったのに、キミが部室に来なかったから、ここに置いてたんだよね」 「僕はペットじゃありません」 「奴隷もペットも同じだよ。じゃあ、付けるね」  そう言って、首輪をつけ始めた。  抵抗しても結局は無駄なので、僕は静かに受け入れる。 「あははは」  上杉先輩は首輪をつけた僕の姿を見て声を立てて笑った。  そして、リードも繋げた。  伊達先輩も僕の姿を見て、静かに笑っている。  上杉先輩も言う。 「なんか、興奮するね」  なんで、上杉先輩が興奮するんだよ。  上杉先輩は、ちょっとSの傾向があると思っていたけど、本格的に目覚めないといいんだけど。  どうせ被害にあうのは僕なんだから。  ちなみに、僕は興奮していない。  しかし、この程度で上杉先輩の気が済むならいいや、と思って今のところは言いなりになることにした。  などと油断をしていると、上杉先輩がとんでもないことを言いだした。 「じゃあ、散歩に行こうか」 「はあ?! このかっこうで外を歩くんですか?!」 「そうそう。まあ、校舎内だけどね」 「いや、それはちょっと…」  校舎内とは言え、この姿を他の人に見られるのは、かなり恥ずかしい。 「抵抗は無意味だ」  上杉先輩は冷酷に言う。  確かにその通りなのだが。  放課後だから、あまり生徒は居ないだろう、などと考えてあきらめることにした。  というわけで、僕は渋々、上杉先輩にリードで繋がれながら廊下に出た。  僕が先に歩き、後を上杉先輩が付いて来る。  本当に犬の散歩だな。  まず、階段を降りて1階へ。  廊下を移動。げた箱あたりで数名の生徒に見られ、笑われた。  僕は恥ずかしさで、目線を下にして歩き続ける。  廊下の端で階段を上がり2階へ。  2階も廊下の端から歩く。教室内ではどこかの部活がやっているようだが、幸い廊下には誰もいない。  続いて3階へ。3階でも誰にも見つからず通過できた…、と安堵していると、階段の直前で聞きなれた声で名前を呼ばれた。 「武田君」  目線を上げると、目の前に新聞部部長の片倉先輩が立っていた。 「面白いことしてるね」  と、笑いながらスマホをこちらに向ける。そして、写真を撮り始めた。 「ちょっと、撮影はやめていただければ…」 「大丈夫、誰かわからないように流すから」  いや、それ嘘だろ。 「武田君って、そういう趣味があったんだね」  片倉先輩は写真を撮り終えると言った。 「ないですよ」 「じゃあ、何でそんなことしてるの?」 「いや…、1か月、上杉先輩の奴隷をやることになって…」 「へー、面白そうだね」  全然、面白くない。  片倉先輩はふと思い出したように話題を変えた。 「そう言えば、合コンって今度の土曜の14時だっけ?」 「そうです」 「楽しみにしているよ」 「じゃあ、行くよ」  後ろから上杉先輩が号令を掛ける。 「じゃあ、土曜日に」  僕は片倉先輩に挨拶して、僕と上杉先輩は階段を登って4階へ。  再び歴史研の部室に戻って来た。  僕と上杉先輩は椅子に座る。 「良い運動になったね」  上杉先輩は満足そうに行った。 「そうですね」  僕は適当に相槌を打つ。 「そんなことより…」  上杉先輩は鋭い目つきになって僕に尋ねた。 「キミ、合コンやるの?」 「ええ、まあ」 「アタシのためにもセッティングしてよ!」 「ええっ!? できませんよ」 「奴隷は、なんでも言うこと聞くの!」 「しかし、女子の面子をそろえるのは上杉先輩にやっていただかないと」 「じゃあ、女子は歴史研の3人ね。キミは男子を揃えてよ。金持ちイケメン!」 「知り合いに金持ちイケメンが居ないんですけど」 「じゃあ、だれでもいいや」  上杉先輩、珍しく妥協するのか?  じゃあ、面倒だから、今度の合コンの面子(=悠斗と片倉先輩)でいいや。 「わかりました、調整してみます」  僕の言葉を聞いて、上杉先輩は満足そうに笑って言った。 「よろしくね」  やれやれ、面倒なことがどんどん増えて行くな。  その後は部室で雑談をしながら過ごした。  上杉先輩も僕に奴隷をしろといっても、何をやらせたらいいか考えがまとまっていない様子。  あまり、エスカレートせずに1か月が終わればいいんだけど。  下校時間になったら、首輪を外されて無事帰宅することができた。
ギフト
0