雑司ヶ谷高校 執筆部
合コン
 土曜日。  今日は合コンの日だ。  14時に、池袋のいけふくろう前に集合となっている。  寒いから、家でゴロゴロしていたいのだが仕方ない、出掛けることにする。  僕は昼ごはんを食べた後、早めに家を出た。  地下鉄で雑司が谷駅から1駅の池袋駅まで移動する。  地下鉄を待っている時、ぼーっと、雑司が谷駅の駅標を見る。  『雑司が谷駅 F10』とある。  F10というのは“駅ナンバリング”というものだ、ちなみに池袋はF09。  なんだろう、何か引っかかるんだけど…?  まあ、いいや。  移動して、約束の15分前に到着した。  いけふくろう前は待ち合わせ場所としてはそれなりに有名なので、人でいっぱいだ。  僕は、その人ごみの中でスマホをいじっている片倉先輩を見つけて挨拶をした。 「こんにちは」  片倉先輩はスマホから目線を僕に向けて挨拶を返す。 「やあ、武田君。今日は誘ってくれてありがとう。合コンなんて久しぶりだから楽しみだよ。取材対象が君と足利君ということで、良いネタが出来そうだ」 「またネタにするんですか?」 「そうだよ。合コンで何が行われているかっていうのは、みんな興味あるからね。それに、学校一有名な武田君と、サッカー部の将来のエース足利君となれば、注目度は抜群だよ。バズるの間違いなし」 「ツイッターで拡散するのは勘弁してください」 「じゃあ、本人特定できないように流すから」 「そんなこと言っても、奴隷の件も、みんなに知られてますけど?」 「本人特定できないように流しているけどなあ。ほら」  そう言って、片倉先輩はスマホの画面を見せて来た。  画面には、僕と上杉先輩の後ろ姿が映っている写真が。  いや、確かに、後ろ姿なのだが…。  校内で数少ない金髪ギャルは上杉先輩だとわかるし、彼女と一緒にいれば、僕とすぐにわかるじゃないか。 「今回も、顔を隠して流すから」  片倉先輩はドヤ顔で言う。  やれやれ。  そうこうしているうちに悠斗がやって来た。 「純也、おはよう。片倉先輩もおはようございます」 「やあ」 「純也と出掛けるの久しぶりだね」 「そうだね」  悠斗とは、中学の頃、たまに一緒に遊びに出ていたが、高校になってからは初めてじゃないかな。  そして、合コン熟練(?)の悠斗がいれば、今日は安心だ。  時間ぴったりぐらに、細川さんを先頭にして、アイドルユニット“O.M.G.”のメンバー3人がやって来た。 「「「おはよー!」」」  3人は、元気よく挨拶してくる。  僕らは簡単に挨拶を返す。  細川さんが合コン会場を押さえているとのことで、早速、移動開始。  徒歩数分のカラオケボックスに到着した。  以前、雪乃とデートで来たところだった。  カラオケボックスで合コンするのか。  細川さんが手際よく予約していたそうで、あまり待たされることなく目的の部屋に6人そろって入った。  部屋の中では、細川さんの指定通り、男女と交互になるように座る。  細川さん慣れてるな。合コンはプロ(?)なんだろうか?  それぞれドリンクと軽食を頼み、自己紹介タイムに突入。  仕切り人、細川さんが自己紹介を始める。  改めて細川さんを見る。彼女は長い黒髪、前髪ぱっつんの一見、清楚系の女子、中身は清楚じゃなさそうだけど。 「初めましてー。私は細川真帆と言います! アイドル活動してます!」 「アイドル活動って?」  片倉先輩が突っ込んだ。 「“O.M.G.”っていうアイドルユニットをこの3人で組んで活動しているんです!」 「地下アイドルってこと?」 「そうです!」 「へー。いろいろ話聞きたいねー!」  片倉先輩は前のめりになって言った。  細川さんが続ける。 「趣味はカフェ巡りです。よろしくお願いします!」 「拍手!」  悠斗と片倉先輩は声を上げて拍手した。  僕もつられて拍手する。  次は細川さんは僕を指名してきた。  仕方ないので、自己紹介をする。 「えーと…。武田純也です。趣味は…、自宅でゴロゴロすることです」 「そう言うの趣味って言うの?」  悠斗がツッコミを入れて来る。  さらに、片倉先輩が女子3人に向かって話す。 「武田君は雑司ヶ谷高校一の有名人だから。人気者だよ」 「おーっ!」  女子陣から驚きの声が上がる。  しかし、僕のそれは人気というのとはだいぶ違うと思うが。  まあ、いいや。  続いてもう1人の女子が挨拶をする。 「初めまして、私は龍造寺りゅうぞうじ佐和さわです。私もアイドル活動してます。趣味はお菓子作りでーす」  龍造寺さんは、ちょっと小柄で、ショートボブ。  お菓子作りとか、女子力高そうだな。  拍手。  次は悠斗の番。 「足利悠斗です。サッカー部所属です。趣味もサッカーかな。たまにゲームしてます」  ここでも片倉先輩が補足をする。 「彼は、サッカー部のエースで学校でも指折りのイケメンだから、モテモテなんだよ」 「おーっ!」  再び女子陣から歓声が上がる。 「今日の合コン、レベル高い!」  龍造寺さんが言った。  本当にレベルが高いのは悠斗だけだと思うが。  次は片倉先輩が自己紹介をする。 「俺は、片倉誠。多分2年生は俺だけかな? 新聞部所属。趣味はゴシップネタを探すことです。今日は、アイドルのゴシップを探りたいと思います」 「きゃー!」 「やだー!」  女子陣は悲鳴を上げるも、なんか嬉しそう。  そして、片倉先輩は趣味もそんなんなんだな。  最後の女子の自己紹介。  女子3人の中では一番背が高く、髪色も明るい茶色で長い髪。 「こんにちは。私は宇喜多右寿ゆずです。私もアイドルメンバーです。趣味はお茶を点てることです」  ん? 宇喜多? お茶を点てる?  ということは…。  思わず僕は尋ねた。 「あれ、生徒会長とは…?」 「生徒会長は姉です!」  やっぱりそうか。  お姉さんとはだいぶ雰囲気が違うな。  しかし、ここは、宇喜多妹と仲良くなっておこうか。宇喜多姉を紹介してくれるかもしれん。  と、考えつつ、合コンは進む。  カラオケタイムとなった。  僕はカラオケは苦手だ。騒がしいのを我慢しつつ過ごす。  そして、歌わされるも、曲を良く知らないので、小学校の時に見てたアニソンでも歌ってお茶を濁した。  時間経過。  座席的に、僕と細川、悠斗と龍造寺、片倉先輩と宇喜多妹という組み合わせに自然となってしまった。  細川さんは、なんかグイグイくる感じ。  僕はちょっと圧倒されながら、会話に適当に相槌を打ちながら過ごす。  そして、あっという間に2時間が経った。  最後に連絡先をそれぞれ交換する。  宇喜多妹とは、あまり会話できなかったのが残念だが、今後、何とかしよう。  合コンが終わり、精算も済ませる。  男子のほうが少し多目に出す。  今月は先日のカレーの具材と合わせて、予定外の出費が多いな。  財布が痛い。  カラオケボックスの建物の前で、さて、解散かなと思ったところで、細川さんが宣言するように言う。 「今日、私は純ちゃんをお持ち帰りしまーす」  そう言って、僕の腕を組んできた。 「え? え?」  僕は困惑した。  そして、“純ちゃん”とは?  他の4人は、 「おおー、頑張れよー」  みたいなことを言って去って行った。 「じゃあ、行こう!」  そう言って細川さんは僕の腕を引っ張る。 「ど、ど、どこいくの?」  まさか、ホテルとか? 「ちょっと、お茶していこうよ」  ああ…、お茶ね。  そして、僕らはサンシャインシティの方へ向った。
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