雑司ヶ谷高校 執筆部
奴隷生活12日目
 期末試験最終日。  朝、いつもより早く起きて弁当作りを始める。  といっても、昨日の残り物とレンチンできる冷凍食品、ご飯も昨晩炊いたもの残り、というわけで、そんなに手間もかからず3人分の弁当が完成した。  妹に、昨日、弁当を作ってやならないと言ったことについて、小言を言われた。  それを適当に流して、家を出て学校に向かう。  試験は昼前にまでに、つつがなく終った。  今回は中間試験のような学年9位は無理だろうが、中の上の成績は確保できてそうだ。  ほっと、一息ついて、筆記用具を鞄に片付ける。  そして、僕と毛利さんは部室に向かう。  扉を開けるといつもの様に伊達先輩と上杉先輩が居た。 「いらっしゃい」 「来たね!」  僕と毛利さんが椅子に座ると、上杉先輩のテンション高く叫ぶ。 「お弁当! お弁当!」 「はいはい」  僕は3人分の弁当を取り出した。 「どうぞ」  同じ形の弁当箱がなかったが、中身は同じだ。 「あれ? 1つ足りなくない?」  上杉先輩が弁当箱の数に気付いて言う。 「弁当箱が3つしかなかったんですよ、僕は購買でパンでも買ってきます」 「待って。それじゃあ、私たちのを少しずつ分けてあげればいいんじゃないかしら?」  伊達先輩が提案する。  みんな、その提案に乗った。  というわけで、弁当箱を開けて食べ始める。 「じゃあ、あーん」  上杉先輩がおかずを箸でつまんで向けて来た。 「え? あーん、って」  僕は驚いた。 「なに? 私の弁当が食べられないっていうの?!」  上杉先輩が文句を言いだした。  そして、“私の弁当”というのは、違うと思うが。   「『あーん』は、ちょっと、恥ずかしいので…」 「何、言ってんの、これぐらい。織田さんともっとすごいことしてたんでしょ?」 「なんで、ここで織田さんが出てくるんですか? それに、織田さんとはこんなことしてません」 「いいから、早く食べて!」  奴隷は命令に逆らえないのだ。  僕はあーんしてもらった。  そして、伊達先輩と毛利さんの弁当も少しずつ分けてもらう。  もれなく、あーんをしてもらった。  女子3人から、あーんしてもらえるとか、事情を知らない人が見たら、ハーレム状態と勘違いしそうだが、現状の奴隷状態とこれまでの虐待の歴史(?)を鑑みると嬉しくもなんとも感じない。  食べ終わって上杉先輩が念を押してくる。 「来週も、お弁当持ってきてね」 「えええー…。食材にもお金がかかるんですよ」 「じゃあ、毎日200円払うから」  上杉先輩が提案する。  他の2人も代金払うことを合意したので、3人分の弁当を来週も持ってくることになった。  まあ、来週で2学期は終わり、金曜日が終業日なので実質は木曜までだから、4日間早起きすればいいだけか…。 「ところで」  上杉先輩が話を切り出した。 「明日の合コン、どう?」 「はい、準備万端です」  実は、何もしていない。 「合コンでは何するの?」  上杉先輩は疑問を呈する。 「この前、行った合コンはカラオケしただけだったので、僕もカラオケにしようと思っています」 「あ、そう。結局、メンバーは?」 「僕、片倉先輩、悠斗、サッカー部の六角と言う人の4人です」 「六角ってどんな人?」 「僕も良く知りません。悠斗の知り合いで、サッカー部と言うだけです」  しかし、どんな合コンになるのか全く予想できないな。  そう言えば、悠斗は、以前、年上が苦手って言ってなかったけ?  伊達先輩、上杉先輩は年上だけど良かったんだろうか?  まあ、いいや、毛利さんもいるし、本人が参加するって言ってるんだから。  とりあえず、明日はどうなることやら。予想不可能だな。  そんな感じで、昼食が終わった。  しばらく部室でまったりしていると、上杉先輩が立ち上がった。 「じゃあ、腹ごなしの散歩に行こう!」  その手には首輪とリードが。 「散歩するんですか?!」 「当たり前じゃん。今日は時間もたっぷりあるから校庭を一周してみようか」  校庭では当然、運動系の部活でそれなりの人数が練習をしているはず。注目の的となってしまう。  外は寒いし恥ずかしいのだが、抵抗しても無駄なので諦めて出かけることにした。  首輪とリードをつけられて、部室から出発する。  げた箱を経由して、校庭に出る。  げた箱付近で、他の生徒多数に見られて嘲笑されたのは言うまでもない。  校庭では、サッカー部とソフトボール部と陸上部が練習をしていた。  途中、サッカー部の悠斗に声を掛けられた。  悠斗は笑っている。 「純也、本当に散歩してるんだな」  さらに校庭の外周を大きく回って移動する。  ソフトボール部と陸上部にも注目を浴びて、校舎に戻る。  げた箱付近で、知った顔に出会った。 「あら、こんにちは」  大きな目で、長い髪の清楚な感じの女子。  ええと…。確か将棋部の…。名前は何だっけ… 「散歩ですか?」  将棋女子は笑いながら尋ねて来た。 「ええ、まあ」  恥ずかしいのも、もう麻痺してきたな。  首輪とリードをしていることについては、どうでも良くなってきた。  そして、思い出したぞ彼女の名前。成田さんだ。 「どうして、繋がれているんですか?」  成田さんはグイと近づいて尋ねた。 「まあ、いろいろあって…」 「いろいろって?」  何だ、グイグイ来るな。 「私、気になります!」  どっかの作品のキャラか? 「えーと…、事情があって上杉先輩の命令を聞く羽目になって」 「事情って?」  もう、質問は勘弁してほしい。  そこへ、上杉先輩が言った。 「あたしの胸を触ったから、その罰だよ」 「えっ?!」  成田さんは、驚きの表情で後ずさった。  僕は、ごまかすように尋ねた。 「な、成田さん、それより、もう帰るの? 将棋部は?」 「今日は将棋会館に用事があるので、抜けさせてもらったんです」 「ショーギカイカン?」 「ええ。ここからだと、北参道駅まで行ってから徒歩で行くんです。地下鉄だと雑司が谷駅から乗り換え無しなので、意外に便利なんですよ」  ショーギカイカンって何だっけ?  まあ、いいや。 「じゃあ」  そう言って、僕と上杉先輩は移動を再開した。  今度は校舎内を散歩する。  上杉先輩が尋ねて来た。 「いまの子、誰?」 「将棋部の成田さんですよ」 「ああ、将棋が滅茶苦茶強いって子?」 「そうです。僕も10枚落ちなのに、ボロ負けしました」 「キミ、弱いもんね」 「いや、上杉先輩も弱いでしょ」 「そうだったね」  などと話をしながら、4階の歴史研まで戻って来た。  その後は、特に命令されることもなく、しばらく過ごす。  明日の合コンの集合時間の確認をしてから、今日は少し早めに解散することになった。
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