雑司ヶ谷高校 執筆部
遭遇~その3
 サンシャインシティで無事にプレゼント購入任務が完了し、予想より安くついたので、妹に提案する。 「今日、プレゼントを選んでくれたお礼にジュースでも奢るぞ」 「ええっ?!」  妹は驚いて僕に向き直った。 「ど、どうしたの? お兄ちゃんらしからぬ言葉だよ」 「そんなに驚くか?」  僕は困惑しつつ尋ねた。 「驚くよ。別人だよ。エリア51から逃げて来た宇宙人だよ」  妹がまた、何やらブツブツ言い始めた。 「ひょっとして、紗夜さんの調教の成果か? いやいや…」 「いいから行くぞ」  僕はそう言って、妹の腕を掴んでいつものカフェに移動する。  妹はジュース、僕はコーヒーを頼んで、それを手にすると通りに面した、いつもの席に座る。  しばらく妹と世間話をしていると、聞き覚えのある声がした。 「武田君」  顔を上げると、前髪に赤いヘヤピンの眼鏡女子=新聞部の小梁川さんが立っていた。小梁川さんも学校帰りなのか、僕らと同じように制服のまま。 「久しぶりね」  彼女は挨拶してきた。 「そうだね、久しぶり」  小梁川さんとは、学校の廊下でもすれ違ったりしなかったな。前に会ったのはいつだっけ? 1か月ぐらい前だったっけ?  小梁川さんは、僕と妹をジロジロ見てから言い放った。 「新しい彼女? その制服、中学生でしょ? 武田君もやるねぇ」  妹は中学のセーラー服のままだ。だから中学生とわかったんだろう。  しかし、当然、僕は否定する。 「いや、こいつは妹だよ」 「妹なの…? 似てないね」  どうせ、妹と似てなくて…(以下略) 「兄がお世話になってます!」  妹が元気よくあいさつした。 「クラスメイトですか?」 「学年は同じだけど、クラスは別よ」  僕は妹に紹介する。 「彼女は新聞部の小梁川さん」  そして、妹を小梁川さんに紹介する。 「こいつは妹の美咲」 「一緒にカフェだなんて、仲いいのね」 「まあね…、今日はちょっとお願いしてたことがあって、一緒に買い物してたんだよ」 「へえ。買い物まで一緒に。本当に仲が良いのね」 「別に良くないよ」  僕は答えた。 「良くないです」  妹も反論する。 「そうかしら。世の中には、口も利かない兄妹も居るぐらいだから、それに比べたら仲が良いわよ」 「そうかな? 小梁川さんは、きょうだい居たんだっけ?」 「兄が居るって言わなかったっけ?」 「そうだったね」  全く忘れていた。 「で、仲は良いの?」 「うちは普通ね」 「あ、そう」  普通がどういうものなのかわからないが、面倒なので突っ込まないことにする。  小梁川さんが話題を変えて来た。 「そういえば、武田君が副会長になってから、順調に生徒会の支持率が上がっているみたい」 「それはよかった」  そうだった、生徒会の支持率を上げるために副会長を引き受けたんだっけ…。生徒会の仕事ほとんどしてないな…。“居るだけ副会長”だから別にいいんだろうけど。今後の予定は、掃除に呼ばれてるぐらい。 「ねえ。来年の生徒会長選挙に出てみたら? 知名度から鑑みて、きっと、圧勝するよ」  小梁川さんは唐突に提案してきた。  当然、僕は拒否する。 「いや、生徒会長みたいな大役は僕には荷が重すぎるよ」 「そうなの、残念ね。ひょっとしたら、武田君が立候補表明するだけで、他のみんなは諦めて立候補しなくなるかもよ」 「1人しか立候補しなかったら、選挙はどうなるの?」 「無投票で当選よ」 「へー」 「まあ、今までそういうことはなかったみたいだけど。武田君が史上初の無投票生徒会長になれたかもしれないのに」 「それって、名誉なことなの?」 「さー。見方によるんじゃない?」 「あ、そう」  まあ、立候補は絶対しないから関係ないな。  そういえば…、雪乃が生徒会長選挙に出たいとか以前言ってたな。彼女はそのためのコネづくりで生徒会役員になったんだった。  この話を全然しないから忘れてたが、雪乃は本当に来年の生徒会長選挙に立候補するんだろうか?  今度、確認してみよう。 「じゃあ、行くね」  小梁川さんは手を振るとその場を去って行った。 「お兄ちゃん」  妹が僕の事を睨みつけて来た。 「まさか、あの人も毒牙に掛けようとしてないよね?」 「はあ?! 毒牙ってなんだよ?」 「最近、お兄ちゃんは女をたらしこんでばかりだから」 「たらしてないよ。どういう目で僕を見てるんだよ」 「そういう目だよ。部屋に女連れ込んで、いちゃつくし…、まったく」 「最近はそう言うことしてないだろ? それに2回だけじゃないか」 「わたしが居ないうちに、他にも連れ込んで、やってるかもしれないし」 「やってるってなんだよ…。もう、いちゃつく相手もいないよ」 「ほんとかなぁ…」  妹は僕の言葉を信用していていないようだ。   怪訝そうな顔をしてストローでジュースをすすった。  僕もコーヒーを一口飲む。
ギフト
0