その後も、妹は僕の女性関係を根掘り葉掘り聞こうとするも、僕の方からは何も言うことはない。報告するほどのことも無いからな。
そうしていると、また、聞き覚えのある声がした。
「純ちゃん!」
顔を上げると、見覚えのある制服姿の女子3人組が立っているの目に入った。
東池女子校のアイドルユニット“O.M.G.”だ。
黒髪ロング、前髪ぱっつんの細川さん。
背が高く、明るい茶髪ロングの宇喜多さん。
黒髪ボブカットの龍造寺さん。
「純ちゃん! 久しぶり!」
細川さんは元気よく挨拶してきた。
「おお…。細川さん、久しぶり…、と言っても10日ぐらいじゃないか?」
細川さんの元気に少々圧倒されながら返事をした。
細川さんとは先日の合コンの後は、短いLINEのやり取りを少した程度だった。
細川さんは少々不満そうに言う。
「“細川さん”って…、“真帆”って呼んでいいって言ったでしょ?」
「あ? ああ、そうだったね」
そのことは、忘れてた。
そして、僕は尋ねた。
「それで、真帆、3人そろって買い物?」
「ちがうよ、今後の活動についてマックで打ち合わせをしてたんだ」
「活動? アイドルの?」
「そうそう、あたしらも2年になったら受験勉強しないといけないから、アイドル活動は来年の夏ぐらいまでにしようって元々決めてたの。それで、それまでに完全燃焼できるようにスケジュールを考えていたんだよ」
「あ、そう」
「ところで…」
細川さんは僕の隣に座っている美咲を見つめて言った。
「この子は?」
「ああ、こいつは妹の美咲」
僕は妹を指さして紹介した。
「こんにちは!」
妹は元気よく挨拶をした。
「こんにちは。へー、妹、居たんだね」
細川さんは僕の顔と妹の顔を見比べながら、お決まりの言葉を言う。
「あんまり似てないね」
どうせ、妹と似てなくて…(以下略)
「兄がお世話になってます!」
妹が元気よくあいさつした。
「クラスメイト…、じゃないですよね。その制服は、確か東池の?」
「そうよ。私たちは東池の生徒。私は細川、こちらは、龍造寺と宇喜多。一緒にアイドル活動をやってるの」
細川さんは、残りの二人の紹介もする。
「すごいですね!」
妹は感心している様子。
「いわゆる“地下アイドル”だけどね」
「ほえー」
妹は感嘆の声を上げた。そして、尋ねる。
「ライブとかやるんですか?」
「やるわよ。さっきもその打ち合わせをしてきたところ」
細川さんは、僕に向き直ると話題を変えて来た。
「ねえ、純ちゃん、クリスマスの予定は?」
「クリスマス? ちょっと予定があって…」
「えっ?! デート?!」
「いやいや、友達が舞台に出るのでそれを見に行くんだよ」
「そう言えば、言ってたね。この前、ここで会った人が出るとか」
以前、細川さんは雪乃と顔を合わせていた。
「そう、それを見に行くんだ」
「そっか…。冬休み中は部活だっけ? お城巡りに行くんだよね?」
「そうだよ。大阪までお城巡りに行く」
「いつ戻ってくるの?」
「え?」
詳細な予定は聞いていないが…。4泊5日の旅ということは…。
「多分、大晦日あたりに帰ってくるよ」
「そうなんだ! 大晦日の夜にカウントダウンのイベントをやることになったから来てくれない?」
「え…。えーと」
大晦日は、年越しそばでも食べてゆっくりしていたいし、そもそも、城巡りから帰ってきた後だと、疲労困憊で動けないだろう。
「ごめん、多分、無理かな」
「そっか、残念」
細川さんは寂しそうにうつむいた。
「じゃあ、年が明けてからライブ見に来てよ」
「まあ、良いけど…」
「詳しい日程は、LINEで送るね」
「ああ、わかったよ」
まあ、行くかどうかわからないけどな。
「じゃあ、そういうことで、妹さんとのデートの邪魔しちゃ悪いから」
「デートじゃない」
「あはは、じゃあ、またね」
そう言って、3人組は去って行った。
それを見送ると、妹が少々怒気を含んだ声で尋ねた。
「今の3人、いつ知り合ったの? 東池の女子と知り合いだなんて、聞いてないよ!」
「切っ掛けは秋ごろに東池にフライヤー配りをしに行った時だけど」
「フライヤー?」
「学園祭でやった占いメイドカフェのフライヤーを配っていた時に声を掛けてきたんだ。それで、実際に占いメイドカフェにも来てくれたしな」
「ふーん」
「それに、前にやった合コンの相手はあの3人だぞ」
妹には、合コンの相手を言ってなかったっけ?
「えええっ!? そうだったの? てっきり、雑司が谷高校の人だと思ってた」
「まあ、そういうことだ」
「それと! お互い名前呼びだったけど?!」
「そ、それは、彼女がそうしろっていうから」
「親しくないと、名前呼びなんかしないよ! 実は家に連れ込んだでしょ!?」
妹は手に持ったジュースのコップをドンと机に置いた。
なんで、怒ってるんだよ。
僕は、少々あきれたように答える。
「別の親しいわけじゃない。合コンを1回しただけだし、連れ込んだりしてないぞ」
「ほんとかなぁ…。ともかく、新しい女の子と知り合ったら、ちゃんと報告してよ!」
「なんで、いちいち、報告しなきゃいけないんだよ?」
「お兄ちゃんが女の子に変なことしないかどうか、監視しないといけないからだよ。この、スケコマシ!」
「なんで、監視するんだよ、ストーカーか? それに、スケコマシってなんやねん」
「スケコマシじゃん! 高校に入ってから、何人女の子を泣かせているの?」
「誰も泣かせてない」
いや、織田さんは別れ話の後、泣いていたって言ってたっけ。
「ともかく、言いがかりだ。お前は、どういう目で僕のことを見ているんだよ」
「そう言う目だよ」
妹は、怒りながらジュースをストローで啜る。
まったく言いがかりもいいとこだ。
その後、妹はずっと不機嫌そうにしていた。
そして、さほど会話もせず数分後にはカフェを後にして、2人で徒歩で帰宅した。