雑司ヶ谷高校 執筆部
お悩み相談~その1
 明けて木曜日。  今日もいつもの様に4人分の弁当を簡単に準備して登校をする。  いつもの様に昼休みには弁当を伊達、上杉、毛利、織田の4人に食べさせる。  伊達先輩から冬休みの城巡りの日程が伝えられた。  日曜日早朝から移動開始で、長篠城、和歌山城、千早城、高取城、篠山城、赤穂城、明石城の7つを回って、東京に戻ってくるのは30日らしい。  例によって青春18きっぷを使って在来線のみでの移動だ。疲れるが、諦めて頑張るしかない。  午後の授業の後、放課後は卓球部で福島の指導を受ける。  歴史研の面子は、僕が卓球をやっているところを見に来ることはなかった。  そして、いつもの様に、さっさと僕は卓球部のユニフォームを着替えて先に帰らせてもらうことにする。  体育館を出て、校門へ向かう途中に、知った顔に出会った。 「こんにちは」  僕は声を掛けた。 「あら、こんにちは」  僕が声を掛けたのは、占い研で生徒会庶務の松前先輩だ。  長い前髪を左右に分けて、今日も神秘的な雰囲気を醸し出している。 「今日は、部活だったの?」 「ええ、卓球部に行ってました」 「え? 卓球部? 歴史研は?」 「ええと…、事情があって、少しの間、卓球部に居るんです」 「あら、そうなの」  松前先輩は僕の顔を覗き込んだ。 「今日も浮かない顔をしているのね」  それはそうだ。奴隷状態で、やりたくもない卓球をはじめ色々やらされているし、他にも悩みは沢山ある。 「困り事があったら、聞くけど?」  そうか、たしか松前先輩は心理カウンセラーを目指していて、それでいろいろ勉強しているんだったっけ?  折角だから、悩みを聞いてもらおうかな…、でも、ちゃんと答えてくれるんだろうか? 学園祭の時に占いをやってもらった時は、なんか適当だったしな…。  どうしよう。  松前先輩は続ける。 「とりあえず、悩みを人に話すだけでも、心の負担は減るっていうから。私に話した内容は秘密にするし」  そう言うことなら、悩みを聞いてもらおうかな。 「じゃあ…、お願いします」 「いいわ。ここで立ち話もなんだから、別の場所に行きましょう」  と言うわけで、僕は松前先輩の後をついて行く。  学校から徒歩数分、都電鬼子母神駅の近くにあるレトロなカフェにやって来た。  この辺は、レトロな雰囲気のカフェや洋食店がいくつかある。入ったことは、ほとんどないけど。  入ったカフェの中は落ち着いたレトロな雰囲気。お客さんは数名いたが空いてる。2人で奥の方の席に座った。  席に着いたところで、松前先輩が言う。 「飲み物だけなら、奢ってあげるわよ」  お悩み相談を聞いてくれる上に、奢ってくれるのか。  いいのかな? とも思ったが、ここは遠慮なく奢られることにする。  昨日、クリスマスプレゼントなどを買ったので、財布の中身がとても貧困なのだ。  2人とも、一番安いコーヒーを頼んだ。  コーヒーが出てくると、少し飲んで、他愛もない世間話を少しだけする。  落ち着いたところで、松前先輩は切り出した。 「じゃあ、悩みを聞こうかしら?」 「はい」  僕は、他のお客さんもいるし、少し小声で話し始める。  まずは奴隷状態について。 「実は、このところ、上杉先輩のいうことを聞かなくてはいけなくて、それで、ちょっと無理難題を言われて困っています」 「ああ、リードに繋がれて散歩とかしていたわね」 「それも、命令でやらされていたんです」 「あれは、好きでやってるんじゃなかったの?」  好きでやるわけない。 「違いますよ」 「経緯を教えて」  原因をあまり言いたくなかったが、仕方ない言うか。 「ええと…。上杉先輩の胸を触ったしまった罰で、1か月間いうことを聞かなくてはいけなくなったんです」 「あらら、痴漢行為はだめよ」 「いえ、その時は寝ぼけていて、全くの不可抗力です」 「そう。でも、触ったのを許してもらう引き換えに、言うこと聞くって決めたんであれば、聞くしかないわね」  解決策は無しかよ…。  まあ、期待はしてなかったが。  僕はそれでも話する。上杉先輩を何とかしたい。 「そのそも上杉先輩は、その件の前から、しょっちゅう僕に絡んで来て無理難題を言ってくるんですよ。何とかならないでしょうか?」 「そうね…、上杉さんとは、あまり話をしたことが無いから、どんな人かわからないんだけど。武田君が“困ってる”って直接言ってはどうかしら?」 「直接言って聞くような人であれば、とっくに言ってます」 「でも、言ったことは無いんでしょ?」  どうだろう…、あったような、なかったような…。  松前先輩は続ける。 「直接言いにくいのであれば、そうね…、上杉さんは恵梨香と仲が良いんでしょ?」 「はい。伊達先輩とは幼馴染だとか」 「じゃあ、恵梨香に相談してみればどうかしら、彼女なら頭も良いから、やんわりと上杉さんを説得してくれると思うけど」 「伊達先輩ですか…?」  どうだろう。逆効果になる可能性もあるのでは?  僕が少し考えこんで黙ってしまったのを見て、松前先輩は続けて言った。 「後は、上杉先輩と距離を置くことかしら。物理的にね」  そうだよな。  歴史研の部室に行かないようにすればいいのか。前もそんなことを考えていたことがあったな。  でも、上杉先輩なら、僕の自宅に乗り込んで来るしな…。  うーん…。  そうか!  放課後は部室行かず、自宅にも戻らずに、夜までどこかを徘徊してしまえばいいのか。 「なるほど、そうします」 「一応、恵梨香には、私からも言ってみるわ」 「それもお願いします」  伊達先輩で、解決するとは思えない。  すると、放課後徘徊で決定かな。  松前先輩はコーヒーを1口飲んでから言った。 「他には、ないかしら」  そして、僕は次の相談事を話し出す。
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