僕は次の悩み事を松前先輩に話し始める。
「実は、以前、気になる人が居たんです。その人も、僕のことが好きだった様子で、ちょっと良い感じになったことがあったんですが、相手が、どうやら、ほかの人と付き合っているようで、僕はあきらめたんです。ところが、相手は以前のように度々、僕にアプローチをしてくるので、ちょっと困惑していて。相手が一体どういうつもりなのか知りたい、と言うか…」
「あら、それは織田さんのことじゃなくて?」
「織田さんとは違います」
これは、毛利さんの話だ。
「そう。織田さんとはうまくいっているのと思っていたのに、別れたと聞いたので」
「ええ、彼女ともいろいろありまして…」
期間限定の(仮)付の彼氏のだったとは言わなくてもいいだろう。
話を戻す。
「それで、その相談の女子は、どうしたいと思っているのかと。二股をしたいと思っているのか、とか…。女子目線から松前先輩のご意見をいただければ」
「そうね。相手には付き合っている彼氏がいて…」
まあ、彼氏じゃなくて伊達先輩なんだけど。ここは訂正しないでおく。
松前先輩の話を続けて聞く。
「それなのに、武田君に接近してくる、と…」
「そうです」
「武田君は、その人のことが好きなのかしら?」
「いや…、今はそれほどでも」
「武田君が、相手のことが好きで、相手に彼氏がいるのを気にしないというのであれば、付き合ってしまうのも一考だと思ったのだけど」
「えっ?!」
僕は驚いた。
「それって、浮気相手になれと…?」
「そう、武田君が浮気相手だということが気にならないのであれば」
「いや、さすがにそれは気になります」
「じゃあ、話し合って、その女子、その彼氏と武田君の3人で付き合うとか」
「ええっ?!」
僕は再び驚いた。
「それは、どういう…?」
「言葉の通りよ、3人で付き合うのよ」
「いや、さすがにそれは…」
「まあ、そうなると相手の彼氏にも了承を得ないといけないけどね」
「そう言うことが可能とは思えないです」
「そうかしから? 配信サイトで海外のドラマを見ていると、良くあるみたいだけど」
「それはドラマだからでは?」
「現実でもあるみたいよ」
「いや…、でも、さすがにそれは…」
そうなると、僕と毛利さんと伊達先輩と3人で付き合うということになる。
話をしていて、松前先輩の恋愛観もなんか、少し違うような気がすると感じた。
雪乃もちょっと違うと感じたが…、それとも、僕がずれているのだろうか?
わからなくなってきた。
とは言え、松前先輩の提案の実現は、流石に無理だろう。
僕は答える。
「それに、僕はその相手の女子が、もう好きではないんですよ」
「じゃあ、はっきりと“好きじゃないからやめてくれ”っていえばいいんじゃないかしら?」
「まあ、そうなのですが…。そうですね、わかりました、今度、何かされたら言います」
その答えを聞くと、松前先輩は微笑んで見せた。
毛利さんの件は、解決できるかもしれない。
上杉先輩の方の解決は、ちょっとわからない、ということになりそうだ。
松前先輩は再び尋ねて来た。
「他にないかしら?」
「今日のところは、これで十分です」
悩みの解決はともかく、話をしたことで少しすっきりしたような気がする。
さっき、松前先輩は『悩みを人に話すだけでも、心の負担は減るっていう』って言ってたっけ。
その後は、松前先輩と世間話をする。
話の内容は、お悩み相談の内容の流れで恋愛の話に。
松前先輩は同じ占い研の蠣崎先輩と付き合っているんだそうな。
同性同士の付き合いも、今の時代、珍しくもなくなっているし、やはり、毛利さんと伊達先輩も付き合っているんだろうな、などと考えを巡らせた。
そして、松前先輩はネット配信の海外ドラマを良く見ているそうで、その中では、同性同士で付き合うとか、3人で付き合うとか、そういうのは良く見ると言っていた。
僕がSF好きだということを言うと、あるSF作品で3人で付き合うシチュエーションのあるドラマを教えてくれた。
“それを参考にしてみて”と松前先輩は笑って言う。
参考になるんだろうか…? とりあえず、今度見てみよう。
そんなこんなで、悩み相談は終了した。
僕は、悩みを聞いてもらったのと、コーヒーをおごってもらった礼を言うと、カフェの前で別れた。
松前先輩は都電荒川線に乗って大塚駅まで帰るらしい。
僕は徒歩で自宅に帰った。