雑司ヶ谷高校 執筆部
大晦日の予定
「起きろー!」  呼びかける声に、僕は目を開けた。  目の前に、妹の美咲が覗き込むようにして僕を見下ろしていた。  僕は驚いて起き上がる。 「おおっ?! なんだよ?! ノックしてから入って来いよ!」 「ノックしたけど返事ないから、死んでるのかと思って入ったよ」 「生きてるぞ」 「もうお昼だよ。いつまで寝てんの? お母さんが、お昼ご飯出来たって」 「そうか」  妹は、僕をジロジロ見て言った。 「服のまま寝てたの?」 「え?」  そうか、昨日の夜帰宅して、かなり疲れていたからそのまま寝てしまったのか。 「あ、ああ、疲れが酷くてな」 「ともかく、もう起きなよ。冬休みだからと言って、あんまりダラダラしないでよ」  そう言って部屋を出て行こうとした妹の背中に、僕は声を掛けた。 「あ、そうだ。お土産買って来たぞ」 「ええっ!?」  赤穂城前のお饅頭屋さんで買って来た 鹽味饅頭しおみまんじゅうを手渡した。 「これはお饅頭?」 「そうだよ」 「ありがとう。ちゃんとお土産買ってくるようになったね」 「まあな」  妹のクリスマスプレゼントのポーチは、“お土産買って来い”って意味でくれたくせに。  妹が部屋を出て行ったあと、僕は一応、服を着替えてから昼食を食べに1階のリビングに降りた。そして、昼食をたいらげると、自分の部屋に戻って再びベッドに転がった。  しばらくスマホをイジっていると、LINEでメッセージが来た。  アイドルユニット“O.M.G.”の細川さんだ。 『純ちゃん、今、東京?』 『うん。昨日の夜、戻ってきたよ』 『じゃあ、明日の大晦日のカウントダウンイベント来ない?」  ああ、そういえば、以前、そんなイベントに出るとか言ってたな。  カウントダウンということは大晦日の夜から、日付が変わるまでだよな。  夜は、年越しそばでも食べた後は、寝たい。  という訳でお断りする。 『ゴメン、大みそかは家族の予定があって、やっぱり行けない』 『残念(´;ω;`)ウゥゥ また声かけるねー♡』  すんなり引き下がってくれた。  そしてしばらくマンガを読んでいると、またメッセージが来た。  上杉先輩だ。 『昨日はお疲れ様。ところで、歴史研のメンバーで大晦日に初詣に行くから集合ね』  大晦日に初詣? なんじゃそりゃ?  大晦日にお参りして、神様にお願いしたら、そのお願いの有効期限は0時までの数時間なのでは?  上杉先輩のメッセージに困惑して、返事をどうしたものかと考えていたら、続きのメッセージが来た。 『既読スルーするんじゃないよ!』  それと、怒り顔のスタンプが。  しょうがないので、すぐに返事を送る。 『いや、大晦日に初詣の意味が分からなくて…』 『大晦日の夜の集合して、0時になったらお参りするんだよ』  そういう事かよ…。  大晦日の夜は、年越しそばでも食べた後は、寝たいので行きません、と返事を書こうとしたが、奴隷生活はまだ続いているんだった。上杉先輩の命令には、拒否権は無いのだ。  奴隷状態は1月5日までのなので、もう少しの辛抱だ。  とりあえず返事を書く。 『どこにお参りに行くんですか?』 『雑司ヶ谷鬼子母神』  それにしても、雑司ヶ谷鬼子母神を選ぶとは、明治神宮とかそういう有名なところじゃなくて、マニアックだよな。  まあ、あそこなら、地元で家から数分で近いし、人が多くなさそうだから良いか。 『わかりました』 『じゃあ、夜の11時45分に地下鉄雑司ヶ谷駅の地上出口に集合ね』 『了解です』  そしてしばらくマンガを読んでいると、またメッセージが来た。  今度は、雪乃だ。 『明日、何してる?』 『日中は寝て、夜は歴史研のメンバーと初詣に行く予定』 『私も行く!』  雪乃が同行することは歴史研のメンバーに、いちいち確認しなくても良いか。  ダメとは言わないだろうし。  という訳で、 『いいよ。じゃあ、夜の11時45分に地下鉄雑司ヶ谷駅の地上出口で』  と返事を送った。  歴史研のメンバー+雪乃か…。  なんか、大晦日も波乱の予感がするな…。
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