僕は時間つぶしの為にサンシャインシティ地下にあるマックで昼食を食べながら時間をつぶしていた。
さっき買ったVRゴーグルを早速使いたいが、上杉先輩の自宅襲撃を恐れて、まだ家へは戻れない。
やることが無いので、スマホをいじったりして時間をつぶしていた。
だいぶ時間が経って、さらに暇を潰していると、突然、聞き覚えのある声で僕は呼ばれた。
「純ちゃん!」
顔を上げると、そこにいたのは、アイドルユニット “O.M.G.”の3人。細川さん、宇喜多さん、龍造寺さんだ。
彼女たちも学校帰りなのだろう、東池女子校の制服であるセーラー服を着ている。
3人とも今来たところなのか、食事の乗ったトレイを持って立っていた。
ここで、彼女たちに会うとは想定外でちょっと驚いた。
「や、やあ」
僕は挨拶した。
「明けましておめでとう」
「ああ…、明けましておめでとう。いや、前にLINEで“おめでとう”って言ったよね?」
「直接会ったから、改めて言ったのよ」
3人はぞろぞろと、僕の隣の席に座った。
「純ちゃん、何してたの?」
「いや、暇つぶしを…」
「暇なんだ?」
「まあ…、事情があって…。細川さんたちは?」
「私たちは、これから打ち合わせ」
「打ち合わせ? 何の?」
「ライブのスケジュールとか演出とか曲順とか、色々」
「なるほど」
そう言えば、アイドルユニットの打ち合わせをここでやってるって、以前、偶然会った時に言っていたような。
「てか、真帆って呼んでって言ってるのに」
「あ、ああ…。そうだったね…」
女子の下の名前を呼ぶのはちょっと気恥ずかしいな。
雪乃は元カノだから例外だ。まあ、それもまだ少し気恥ずかしいのだが。
打ち合わせの邪魔をするのは悪いと思って、そこで会話を打ち切った。
僕はスマホで、VRゴーグルについて調べたりとか、それで遊べる面白そうなゲームいくつか調べてダウンロードしたりしている。
一方、真帆たちは、ワイワイ楽しそうに打ち合わせをしている。
話の内容は、隣にいるので、どうしても耳に入って来るが、聞いたことのない単語も多く、半分近く意味が分からなかった。
1時間程経って真帆たちの打ち合わせが終わった頃、再び真帆が話しかけて来た。
「純ちゃん、放課後って例の部活やらないの? 普段は何も活動してないんだっけ?」
「うん。それに、今後は幽霊部員になろうと思っているからね」
「幽霊部員?」
「そう。いろいろあってね…」
「暇してるんだったら、私たちのプロデューサーやってよ!」
「は? プロデューサー? 何それ?」
「私たち“O.M.G.”を仕切るの!」
「え? そんなことできないよ。アイドルとかライブとか全然知らないし」
「全然知らない方がいいよ」
「なんで?」
「新しい目線で、私たちが思いつかないようなアイディアが思いつくかもしれないじゃない?」
「いや、無理だよ」
「プロデューサーは無理でも、オブザーバー的にちょっと意見をくれるだけでいいから、そういう役目をやってほしいな」
「僕は創造性に欠けるんだ。意見なんて言えないと思うよ」
「ともかく、1度ライブを見に来てよ。入場料はタダにするから。それで何か感想を言ってくれれば」
「うーん…。プロデューサーとかオブザーバーをやっても僕にメリットが無いよ」
「可愛い私たちと一緒に居れるよ」
興味ない。
まあ、1度ライブ行くぐらいはいいかな。何度も誘われているし。
それで、意見を思いつかなかったら(思いつかないだろうし)、真帆たちも諦めてくれるだろう。
いや、待てよ…。
そうだ!! 思いついた!!
「じゃあさ、プロデューサーやってもいいけど、代わりに宇喜多さんのお姉さん紹介してよ」
僕の言葉に宇喜多さんが答える。
「もう、姉を知ってるじゃない?」
「知ってるけど、連絡先とか知らないから」
「じゃあ、LINEで良い?」
「それでいいよ」
「一応、姉に確認する」
そう言って、宇喜多さんはスマホをイジっている。
すぐに返事が来たらしい。
「姉はOKと言ってる」
「おおっ! ありがとう」
という訳で、僕は宇喜多姉のIDを教えてもらって、僕のスマホに入れる。
改めて礼を言う。
「ありがとう」
スマホの表示された名前を見る。
宇喜多姉の名前は“宇喜多伊代 ”って言うんだ、初めて知った。
早速、宇喜多姉にメッセージ入れる。
『こんにちは、よろしくお願いします』
すぐに短い返事が来た
『よろしく』
うーん。迷惑だったかな?
いやいや、ここは宇喜多姉とお近づきになれるチャンスだ。この状況を有効的に使いたい。
そして、先に連絡先を教えてもらったし、後は僕がプロデューサーとして役目が果たせないとしてクビになっとしても、連絡先は残るからな。
僕にメリットしかない。
ちなみに、LINEで上杉先輩からメッセージが来てるようだったか、見ずにスマホをポケットにしまった。
僕の様子を見て、真帆が尋ねる。
「純ちゃん、会長のこと狙っているんだ?」
「え? いや、狙うとか、そんなんじゃあないよ」
ちょっと狙ってるけど、ここは誤魔化す。
「年上が好きなの?」
「別に年上が好きという訳では…」
単に年上なら、身近に上杉先輩と伊達先輩がいるけど、彼女たちは邪悪すぎて恋愛対象になりようがない。
細川さんは真顔で続ける。
「ライバル登場だね」
「ライバル?」
真帆は、僕の言葉には答えない。
「それは置いといて…」
そして、切り替える様に、嬉しそうにジュースにカップを持ち上げた。
「純ちゃん、プロデューサー就任おめでとう! 今後ともよろしく!」
O.M.G.の3人はそれぞれ乾杯みたいにカップを合わせる。
僕も半ば無理やりカップを持たされてやらされた。
その後、しばらくアイドル活動について、いろいろ教えてもらった。
O.M.G.の活動状況や、結成の経緯とか、ライブに出る時どうするかとか、今後やりたいこととか、その他諸々。
以前も聞いたが彼女たちは、とりあえず夏休みが終わるまでアイドル活動をするらしい。
その後は受験勉強に専念するので、活動は休止するそうだ。
進学を希望しているようだが、3人とも別の大学を志望していて入学後は活動をするかどうかはわからないらしい。
なんやかんやで約3時間、いろいろ話を聞かされた。
わからないことについては質問をする。
さっき横で聞いていてわからなかった言葉の意味が少しはわかるようになってきた。
しかし、情報量が多いな。
何とか、その情報を頭に叩き込む。
そして、早速、今週土曜日のライブを見に行くことになった。
夕方頃、話も一段落付いたので僕らは解散した。