雑司ヶ谷高校 執筆部
じゅんちゃんの通学路
 水曜日。  昨夜は、悠斗とゲームを少し遅くまでやっていたので、ちょっと寝不足だ。  悠斗は部活が始まるから、平日夜は疲れて、ゲームにあまり参加できないかもしれないと言っている。  という訳で、平日は、僕一人でレベル上げをやろうと思っている。  午後の授業がすべて終わり、今日もさっさと下校してしまおうと、毛利さんに短く挨拶だけして、急いで教室を出た。  階段を下りた下駄箱辺りで、背後から声を掛けられた。 「武田君」  卓球部の福島さんが立っていた。  今日は、彼女1人で羽柴部長はいない。 「や、やあ…、どうも」  僕は一応挨拶した。 「卓球部の…」    福島さんが話し始めが、僕は言葉を遮る 「卓球部には行かないよ」 「違う違う。昨日、武田君の卓球部のユニフォームが男子更衣室にあったらしいから、渡しに来たのよ」  福島さんはユニフォームが入っているのであろう紙袋を差し出してきた。  そうか、ユニフォームは置き去りにしたままだったっけ。  でも、もう卓球はやらないから要らないんだけどな。 「僕はもう使わないから、返すよ」 「えーっ。これ、もう武田君の物だよ。昨日の夜、ちゃんと洗ったのに」 「他の部員にあげればいいのでは?」 「使用済みなんてだれも欲しがらないよ。それに、せっかく、洗う前に、“武田君が着たユニフォーム” だって、オークションに出すのを思い留まったのに」 「誰も欲しがらないのであれば、オークションでも売れないでしょ。言ってること、矛盾してるけど?」 「違う違う、卓球部では欲しがっている人がいないってこと。校内だったらいそうじゃん? 織田さんとか」  新聞部がツイッターで拡散したおかげで、僕と雪乃が付き合っていたことは、ほぼ全校生徒に知れ渡っている。 「彼女は、そう言うフェチはないと思う」 「まあ、冗談だけど」  なんなんだ…。  ここで押し問答していて、上杉先輩とか伊達先輩にばったり出会ったら、当初の目論見が破綻してしまう。  なので、早くこの場を立ち去りたい僕は、福島さんの手からユニフォームが入っている紙袋を奪い取った。 「じゃあ、もらっておくよ」  そして、僕は短く挨拶して、下駄箱でさっさと靴を履き替えて校舎を後にした。  その後は、今日も池袋サンシャインシティのマックに行って、120円ドリンクで夜まで粘ることにする。  完全に、下校の通学路が遠回りに変わってしまったな。  ここでは、やることがあまりないので、宿題をやる。  今まで、宿題は図書室でやることが多かったが、上杉先輩の夜討ち朝駆けがあるかもしれないので、校内は危険だ。  まあ、図書室がマックになったと思えばいいか。  ちょっと騒がしいけど。  小一時間宿題をしていると、知った声で名前を呼ばれた。 「武田君」  顔を上げると、松前先輩と蠣崎先輩カップルが立っていた。  松前先輩が挨拶をして来た。 「こんにちは」  僕の挨拶を返した 「あ、こんにちは」  松前先輩たちは、隣の席でトレイを置いて座った。 「1人?」 「こんなところで会うなんて、珍しいわね」 「最近はここに入り浸ってます、前に松前先輩に、上杉先輩と物理的に距離を置けと言われたので、それを実行してます」 「あらそう? 蠣崎もいるけど、悩み相談の内容について話をしてもいいの?」 「ええ…、まあ、良いです」 「それで、距離を置いて、上手く行ってるの?」 「おかげ様で、平穏な日が増えました」  と言っても、まだ3学期始まって2日だけど。 「それは良かったわね」 「もう1つの悩みはどうかしら?」  僕が、毛利さんと伊達先輩が付き合っていると勘違いしていて。その上で、毛利さんが僕に迫ってくるので、僕のことを浮気相手にしようと企んでいるのでいるのではないか? と思っていたことについて相談したのだった。 「ええと…、僕が誤解していた部分があって…、それは解消しました。それで、相談の相手の女子は、変わらず迫って来るので、もう僕も開き直って、イチャついたりして楽しもうと思っています」 「そうなの? それはそれで、いいんじゃないのかしら。じゃあ2つとも悩みは解決したってことね」 「ええ。アドバイス頂いて、ありがとうございました」 「また何かあったら、いつでも相談に乗るわ」 「はい」  松前先輩、良い人や。  上杉、伊達両先輩は、松前先輩の爪の垢を煎じて飲めば良いと思う。  しばらくして、食事が終わった松前、蠣崎両先輩は去って行った。  僕は、その後もマックに居る。  宿題を続けてやり、それが終わると、良い時間になっていたので帰宅した。
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