雑司ヶ谷高校 執筆部
出演依頼
 木曜日。  朝、登校し、午前中の授業を終え昼休み。  雪乃が声を掛けて来た。 「純也、お昼一緒に食べよう!」 「いいよ。毛利さんも良いかな?」 「もちろん」  と、いう訳で僕、雪乃、毛利さんは連れ立って食堂までやって来た。  僕と毛利さんは持参した弁当を横並びで食べる。  雪乃は食堂の定食を僕らの対面の席で食べ始め、そして、話しかけて来た。 「純也、最近、放課後あわてて帰ってるようだけど?」 「う、うん…。まあ、いろいろあって…」 「純也がなかなか捕まらないから話が出来なかったんだけど、奴隷の件…」 「いやいやいやいや、あれって、関係ないでしょ?」 「えーっ、やってよ。面白いから」 「面白くない」  毛利さんが横から尋ねる。 「なんで、雪乃ちゃんの奴隷?」  雪乃は笑いながら答える。 「この前、私んち泊まったときに、純也が私の胸触ったのよ」 「えっ?!」  毛利さんは驚いて、僕のほうを向いた。 「いやいやいやいや。待ってよ、あの状況は、合意の上なのでは…」  僕は弁解する。  本当に勘弁してほしい。 「ふーん、触ったんだ」  毛利さんが少々嫌味っぽく言う。 「触ったのは確かなんだけど…」  困ったな。なんとか、この状況を終わらせないと。  それに、食堂でこんな話は、みんなの耳に入るだろ。また変な噂になったら困る。 「合意の上だから、触ったからと言って奴隷をやる必要はない」 「私は、リード付けて散歩プレイとかしてないじゃん? やってみたくて」 「もう、あんなのやりたくないよ」 「まあ、本当は、それよりも、ちょっとお願いしたいことがあったから」  雪乃はそう言って定食を食べ続ける。 「お願いしたいこと? 別に僕を奴隷にしなくても聞いてあげるよ。内容次第だけどね」 「遅れてたんだけど、今度、映研がショートドラマを3本作るから、演劇部がそれに出演するんだけど…」 「ほうほう」  前にそんなこと言ってたな。 「純也も出てよ。そろそろ、台本が上がって来るから」 「ええっ? 僕は演技は無理だって」  また、無理難題を言ってきたな。 「またまたー。王子様の演技、良かったのに」  確かに学園祭の時、舞台“白雪姫”で王子様をやった。  雪乃は褒めてくれるが、あの時は台詞も出番も短かったし、善し悪しなんて判断できないでしょ。 「あれは、あの時限りで…」 「演劇部の部長もOKくれたし、映研の部長も“是非”って言ってたよ。純也は有名人だから、出演したら話題になりそうだからって」  僕が有名人ってのは、いい迷惑なんだが。 “エロマンガ伯爵”の件や、“白雪姫”で雪乃と公開キスした件とか、その他、新聞部のツイッターでネタにされて、校内で僕のことを知らない人はいない。  雪乃は話を続ける。 「それで、撮影は1月から3月にかけて、週末を使ってやる予定だから」 「週末は自宅でゆっくりしてたいんだけど」 「えーっ、それって暇なんじゃん?」  まあ、暇だけどな。 「また胸、触らせてあげるから」  雪乃はちょっと自分の胸を突き出すような仕草をした。 「うーん」  これには抗えないな…。  まあ、他にも、雪乃とは色々とHなことを、もっと出来るかもしれないしな。雪乃とは友好的にやっておこう。 「わ…、わかったよ。それで、3本撮るって言ってたけど、全部に出るの?」 「いや、さすがにそれは無いよ。純也は1本だけ」 「内容は?」 「台本は今週中にもらえる予定で、細かい内容まではまだわからないのよ。台本、もらえたら教える」 「わかった」  まあ、歴史研に行かなくなったから、だいぶ時間も空くからな。  台詞を覚える時間は余裕であるだろう。 「じゃあ、近々、打ち合わせで映研と演劇部が集まるから、その時は純也にも声かけるよ」 「OK」 「あと」  雪乃が再び話題を変えた。 「お弁当のこと覚えてる?」 「え? お弁当?」 「ほら、週に1回ぐらい、お互いにお弁当を作って交換するってやつ」  そう言えば、そう言う話もあったな。  たしか、毛利さんの発案で、僕と雪乃と毛利さんが弁当を持ち寄って、  毛利さんの作った弁当を僕が食べ、  僕の作った弁当を雪乃が食べ、  雪乃が作った弁当を毛利さんが食べる。  翌週は、その逆で、  雪乃が作った弁当を僕が食べ、  僕の作った弁当を毛利さんが食べ、  毛利さんが作った弁当を雪乃が食べる。  という提案だ。  すっかり忘れていた。 「いつやるか決めてなかったよね? 明日から、毎週の金曜日にやらない?」  僕も毛利さんも異論は無かったので、その通りに進めることになった。  僕らは、その後も世間話をしながら昼食を取る。  そして、食事を終えると教室に戻って席についた。  隣の席の毛利さんが話しかけて来た。 「雪乃ちゃんの胸、触ったんだ?」  その話題かよ…。 「え? まあ…、うん」  毛利さんは、ちょっと不機嫌な様子で、無言で顔を背けた。  お泊り会の時、毛利さんともハグしたじゃん。それでも不十分なのか?  それとも、毛利さんも胸触ってほしいとか?   さすがに、それは無いか。  そんな痴女みたいなのは雪乃だけだろ。  チャイムが鳴り、午後の授業が始まった。
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