雑司ヶ谷高校 執筆部
元カレ
 放課後は、サンシャインシティのマックで時間をつぶし、夜はVRゲームでレベルアップを図るため小一時間ほどやるというのが日課になりつつあった。  この間、上杉先輩や伊達先輩からLINEのメッセージが来ているようだったが、読みたくなかったのでLINEアプリの調子が悪いということにして、読まずに放置した。  妹が僕の消息を彼女らに送っているはずだから、僕が生きていることだけはわかっているはずだ。  そして、金曜日。  朝、早起きして、“お弁当交換会”のための弁当を作る。  今回も、昨夜の残りものと、レンチンできる手抜き弁当だ。  そして、登校すると教室で雪乃に話しかけられて、ショートムービーの台本が出来たという。  台本を渡すついでに、今日の放課後に行われる映研と演劇部との打ち合わせに参加することになった。  ほとんど知らない人と会うのは疲れるが、今後撮影でしばらくは何度も顔を見ることになるのだろうし、仕方なく参加する。  お昼は、“お弁当交換会”で、僕と雪乃と毛利さんがそれぞれ作った弁当を交換して教室で食べた。  午後の授業もつつながく終わり、放課後。  演劇部が使っている空き教室に関係者が集合した。  演劇部は雪乃など全員で8名。  映研は全員で6名。  台本を担当している執筆部から3名。その中には、例のミステリーの執筆を得意とする “アンナ・鶴ゲーネフ” こと森さんもいた。  そして、僕。  僕は彼らを良く知らない。全員、校内で見かけたことがある程度で、話は全くしたことがない。  演劇部、映研、執筆部はこれまで、ショートムービーを作ったりして何度も会っている様子で、良く知った関係のようだ。  なので、僕だけアウェイ。  僕が、教室に入ると茶髪で、ツーブロック&シャギーの男子生徒が話しかけて来た。 「やあ、武田君。俺は演劇部の部長の浅井。今回はありがとう、助かるよ」  以前、演劇部の部長は学園祭のイケメンコンテストで、4位だったと聞いたことがある。  背は僕より少し低いが、確かにイケメンだ。 「あ、どうも…」  僕は会釈した。  次に話しかけて来たのは、茶色い縁の伊達メガネをかけている男子生徒。  左手には何やら紙を丸めたものを持って、それで自分の肩を叩いている。 「僕が映画研究部の部長、朝倉です。よろしく」  少し不愛想な感じ。  彼は、握手をしてきた。 「武田君が出てくれると、いい作品になるのは間違いないよ」  何の根拠でそんなこと言うんだろうか…?  挨拶を終えると、皆、椅子を円形に置いて座る。  僕の隣には雪乃が座ってくれた。  そして、執筆部の部長・斎藤先輩から台本がみんなに配られた。  僕は、自分の出演の分だけをもらう。  その台本はそんなに厚くない、白雪姫の時より少し薄い。  ということは、本当に短い作品のようだ。  一応、安心した。  台本をペラペラとめくり内容を確認する。恋愛もののようだな。  そして、隣の雪乃に話しかける。 「僕がやる役って、どれ?」 「主役よ」 「えっ!? 主役!?」 「短いし、台詞も少ないから大丈夫。ちなみにヒロインは私」  主役とは荷が重いな。  まあ、いいや。諦める。  そこからは映研の朝倉部長が仕切って、撮影スケジュールの話を始め、各メンバーと調整をする。  僕は基本、暇なので、撮影の日程はすべてお任せした。  最終的には、僕の出演するムービー撮影は最後で、日程は3月後半の週末4日間を使って撮影することになった。予備日もあり。  このムービーは、映研がコンテストに出すものと、映研と演劇部が来年度の新入生向けの宣伝用の映像として作るという。  そう言えば、入学してすぐにオリエンテーションで各部活動を紹介する時間があって、映研は映像を流していたっけ?  演劇部はどうだったか覚えていない。  そもそも、どこの部にも入る気はなかったので、ちゃんと聞いてなかった。  もちろん、歴史研究部もどうだったかも全く記憶に無い。  その後も、2時間ぐらいかけて、スケジュール決めや撮影場所の報告がある。  僕の撮影場所は学校の教室とか校庭だということだ。移動が無くて楽だ。  打ち合わせが終了すると、皆、下校していく。  僕は雪乃からの誘いで、池袋でお茶でもしようということになって移動する。  池袋のファミレスのドリンクバーで粘りつつ、世間話をする。  話の中で、唐突に雪乃が教えてくれた。 「浅井部長ね。元カレなんだ」 「そうなの?」 「そう。嫉妬した?」  雪乃はちょっとニヤつきながら尋ねた。  正直なんとも思わなかったが、ここで“別に”って答えたら、雪乃は落胆するんだろうか?  雪乃の彼氏だったということは、いろいろなHなことやったんだろうな。  そもそも、何で浅井部長が元カレって教えたんだろう?  嫉妬してほしいのかな…?  ここは雪乃の期待(?)に答えて、 「少し」  とだけ言った。  雪乃はその答えにちょっと満足そうにしている。 「それで」  今度は僕が質問する。 「なんで別れたの?」 「いろいろ合わないところが出てきて、3週間ぐらいで別れたよ。夏休み時期に付き合ったから、一緒に海行ったりしたよ」 「ふーん」  元カレの話とか、あんまり興味ない。 「今年の夏は、一緒に行こうよ」  雪乃が少し前に乗り出して言う。 「海に?」 「そう」 「そうだね…」  僕の答えを聞いて雪乃は嬉しそうにしていた。  去年の夏は、歴史研の合宿で泳ぎに行ったよな。  でも、雪乃との、この微妙な関係が夏まで続いているのだろうか?  僕らはもう少し世間話をしてから帰宅した。
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