雑司ヶ谷高校 執筆部
てんぼうパーク
 水曜日。  放課後に真帆にライブの打ち合わせがしたいとメッセージが来ていて、サンシャインシティのマックで待ち合わせをしている。  今日は時間を明確に約束していないが、まあ、いいだろう。僕は暇だし、もともと、マックで時間をつぶそうと思っていたからな。  という訳で、僕がマックに到着して120円ドリンクを購入。それを手にして店内を回る。  まだ、真帆は来ていないようだ。  適当な席に座ってしばらく待つ。  15分程して真帆が手にドリンクを持ってやって来た。 「純ちゃん、待った?」 「いや、それほどでも…。あれ? 真帆1人だけ?」 「そうだよ。今日、右寿は茶道部で、佐和は社会問題研究部に行ってる」  今日は週末のライブの相談ということで、何か手伝いで僕にやらせたいことでもあるんだろう。  まあ、それを伝えるのは1人で十分だしな。 「そっか…。真帆は部活やってないんだよね?」 「うん。私は帰宅部。入学時は演劇部とか考えたんだけどねー。あそこは、活動時間が多くて、アイドルができそうになかったから入るのやめた」 「でも、演劇とか興味あるんだ?」 「うん、前に言わなかったっけ?」  聞いたような気がするな…。 「そう言えば、この前、合コンの帰りに偶然会った純ちゃんの知り合い、演劇部の人でしょ?」  そう言えば真帆は、雪乃と会ったことがあったんだった。 「あの人、なんて名前だったっけ?」  真帆は尋ねた。 「織田雪乃だよ」 「そうそう、織田さん。純ちゃんは、あの人の演技見たことあるの?」 「何回かある」  見るどころか、共演もしたことがあるし、また、今度ショートムービーで共演する。言わないけど。  細川さんは続けて尋ねる。 「演技、上手かった?」 「うん、彼女は上手いと思うよ」 「そっかー。私も見てみたいな。というか、一緒に共演してみたい」 「そう言えば、YouTubeに彼女の出演した舞台が何本かUPされているよ」 「へー。URL教えてよ」 「“雑司が谷高校 演劇部” で検索すると出てくるよ」 「家に帰ったら、見てみるよ」  忘れていたが、学園祭で僕が王子様をやった“白雪姫”もUPされているんだった。僕と雪乃のキスシーンと、その後の僕のアホ面も見られてしまうな。  まあ、仕方ない。  僕は尋ねた。 「真帆は、演技は出来るの?」 「うーん…、やったことないから…。でも、いつかはやってみたいと思ってるよ」  演劇話はこれぐらいにして、次は週末のライブの打ち合わせをする。  物販の荷物が多いので、運ぶのを手伝ってほしいとか、ちょっとしたことを幾つかお願いされた。  まあ、些細な事ばかりだったので承諾した。  ライブについての話は1時間ほどで終了。  ジュースを飲み干して、そろそろ帰るのかな、と思っていると真帆が誘ってきた。 「ねえ、この後、“てんぼうパーク”いかない?」  “てんぼうパーク”とは、ここサンシャインシティにある高層ビル “サンシャイン60”の展望室だ。  何しろ、60階にあるので、景色が良い。  今は、時間的に、そろそろ夜景が見えるはずだ。  まあ、どうせ暇だから付き合うか。 「別にいいけど」 「じゃあ、行こう」  真帆は嬉しそうに立ち上がり、僕の腕を掴んで引っ張った  という訳で、移動する。  専用エレベーターで60階 “てんぼうパーク” まで。  まずはチケット売り場でチケットを購入。700円。  他にも人は、結構いた。外国からの観光客も多いようだ。  窓の外は、太陽は地平線の下に落ちてた夕暮れで、夜空と、わずかばかりオレンジ色の空を見ることが出来た。  ビル群の灯りや、高速道路を走る車のライトが見える。なかなか良い夜景だ。 「すごく綺麗だね」  真帆は感動したようで、窓ガラスに張り付いて夜景を楽しんでいる。  ぶらぶらと展望台を回る。  そこの一角にあるカフェを見かけて、真帆が提案する。 「純ちゃん、ジュース飲もう。おごるから」  まあまあ値段が高いのに、バナナスムージーをおごってくれた。  僕らは、カフェの席に座って話をする。 「純ちゃんって、将来、何かやりたいことあるの?」  突然の質問に困惑する。  そして、これは嫌な質問だ。  やりたいことが、何も無いのだ。  出来れば、一生、布団のなかでゴロゴロしていたいが、それは無理だろう。  僕は答えることができなかった。 「うーん…」 「歴史とか好きなんじゃないの?」 「いや、歴史研に入ったのは、成り行きで…。僕も、もともとは帰宅部だったんだよ」 「じゃあ、興味のあることは?」 「うーん…」  無い。  まあ、宇喜多姉とか興味あるけど、真帆はそう言う質問をしてるわけではないので、それは口にしない。 「勉強はできるんだっけ?」 「まあ、中の上と言うか、上の下と言うか…」 「進学はするの?」 「したいとは思っているけど、興味のあることが今ないので、どんな学部に行けばいいのか、迷っている。学校では、文系志望で出してはいるんだけど…」  なんか、良い回答ができないな。  僕は質問をし返す。 「真帆はどうなの? 進学は?」 「受験するよ。だからアイドル活動は夏までなんだって」  ああ、そうだった。 「受験が終わったら?」 「また、アイドル活動やるよ」 「そうか…、他の2人は?」 「右寿と佐和は、検討中みたい。でも大学では、もうやらないかも知れない」 「そうか、じゃあ、真帆は大学ではソロだね」 「まあ、どこか良いアイドルユニットがいれば加入したいけどね。あとは、事務所に所属したりとか、そうすれば良い仕事とか、オーディションとかあり付けそうだから」  真帆も先の事を考えてるな。僕とは大違いだ。  アイドルというのは、ちょっと特殊だが。  腕を組んで自分の不甲斐なさについて考えていると、別の質問が飛んできた。 「純ちゃん、彼女いるの?」 「え? いないよ。前に言わなかったっけ?」 「前に聞いて、もう1か月ぐらい経つから、彼女出来てるかなーって」 「そう簡単に彼女は出来ないよ」 「前は、いたことがあるの?」 「うん。去年の秋にちょっとだけ…」 「今は、好きな人は?」 「うーん…」  宇喜多姉は、まだ “好き” までは行ってないよな。  もうちょっと、良く知りたいという風に思っているぐらい。 「いないかなあ…」 「そっかー」  真帆、なんか笑ってる。  僕らは、もう少しだけ世間話をして、バナナスムージーを飲み干すと、“てんぼうパーク” を後にして帰路についた。
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