雑司ヶ谷高校 執筆部
勝負
 木曜日。  学校では何事にもなく平和に過ぎ、放課後となった。  今日もさっさと撤収する。  毛利さんに簡単に挨拶をすると教室を後にした。  そして、いつものように、サンシャインシティのマックまでやって来た。  120円ドリンクを購入して適当な席に着き、しばらくの間、宿題をしている。  かれこれ1時間ほど経っただろうか、突然、良く知った声で呼びかけられた。 「お兄ちゃん!」  顔を上げると、妹の美咲とその友達の前田さんが立っていた。  2人とも学校帰りで、中学のセーラー服を着ていた。 「お兄さん、こんにちはー」  前田さんが挨拶をして来た。 「こ、こんにちは」  僕も挨拶を返した。  妹と前田さんもドリンクのみを持っていて、僕の隣の席に座った。  早速、妹は尋ねて来た。 「お兄ちゃん、こんなところで、何してるの?」 「え? 宿題だよ。お前たちも何で?」 「一緒に文房具を買い物に来たんだよ」 「そうか」 「で、なんで、こんなところで宿題やってんの? 部活は?」 「最近、部室に行ってないのは、知ってるだろ?」 「でも、紗夜さんが心配してたじゃん? いいの?」 「ああ、一昨日、部室に行って、上杉先輩たちと話をして来たよ。だから大丈夫」 「ほんとに?」 「本当だよ」 「ふーん」  妹は、なんか不満げにしている。  続いて前田さんが話しかけて来た。 「ねえねえ、お兄さん。今度、私と卓球で勝負してくださーい」  また、唐突なお願いだな。 「え? なんで?」 「だって、お兄さんって、“天才卓球少年”なんでしょー? 腕前を知りたいです」 「いや、天才じゃないってば」  妹が茶々を入れて来る。 「お兄ちゃんは、天変地異の方の“天災”だよね」 「なんでだよ」  前田さんが前のめりでさらに言う。 「ともかく、勝負してくださーい」 「いやだ」 「えー…。じゃあ、うちの卓球部と、そちらの卓球部で合同練習できないか、聞いてもらえませんかー?」 「そう言うのって、学校を通じてやればいいのでは? 僕は卓球部ですらないし」 「でも、生徒会の副会長なんですよねー?」 「え?」  そうだった、僕は副会長なのだった。すっかり忘れていたよ。  そのことを妹に聞いたんだな。 「副会長なら、権限ありそうじゃあないですかー?」 「僕に権限なんか何もないよ。名前だけの副会長だからね」  妹が、また割り込んできた。 「それぐらい、やってあげなよ」 「やだよ、面倒くさい」  その後も、卓球の話やら、なんやかんや横から話しかけられて、宿題があまり進まなかった。  小一時間もしたら、前田さんとは別れて、僕は妹と一緒に帰宅した。  マックでは、邪魔されたおかげで宿題があまり進まなかったので、仕方なく自宅で残りを片付けている。  そうしているとスマホが鳴った。  LINEで真帆からのメッセージが。 『演劇部の動画見たよ!!』 『純ちゃんも出てるじゃん!!』 『それに、キスもしてたじゃん!!』  昨日、学園祭にクラスでやった舞台“白雪姫”をYouTubeにUPされていると教えたから、見られたんだな。 『キスは、演技だから』 『普通、演技でもキスはしないでしょ!!』 『それより、織田さんの演技はどうだった?』  キスからは、話題を逸らす。 『上手かった! すごかった!』 『でしょ?』  たとえ、元(仮)カノと言っても、褒められると僕もちょっと嬉しいかな。 『今度、織田さんに会わせてよ』 『いいけど』 『じゃあ、セッティングお願いね!』 『わかったよ』  最近、雪乃は演劇部で忙しいみたいだから、時間を取れるのだろうか?  明日、金曜日で、“お弁当交換会”があるので、その時にでも聞いてみるか。
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