雑司ヶ谷高校 執筆部
お茶の時間
 日曜日。  今日は予定もないので、家で基本ゴロゴロしている。  午前中は、漫画読んだり、ちょっとだけ勉強したり。  午後からは、人気ファンタジーVR OMMRPG"色彩の大陸"をやる。  いつものようにVRゴーグルをかぶって、ちまちまとレベル上げをやっていた。  ゲーム内の拠点となる街の広場では、他の参加者のキャラクターもたくさんいて、それぞれ会話したりしてるようだった。  参加者は海外の人も多いようで、キャラの上に見えるチャットの吹き出しは、外国語の文字もたくさん見えた。  コミュ障の僕は、日本人すら話をしないのに、ましてや外国人と話するはずもなく。誰とも話しかけたりせずに1人で街の外に出て、弱モンスターを倒しつつ辺りをうろうろしている。  そんな感じで、ちょっと長めにゲームをプレイしていると、突然肩をたたかれた。  また、妹か…。  僕はゴーグルを外す。  すると、目の前になんと伊達先輩が立っていた。  予想外の人物の登場に僕は驚いた。 「えっ?! 伊達先輩?! なんでここに?」  伊達先輩は僕の驚く様子に、少し微笑んでみせてから言った。 「美咲さんの家庭教師で来てるのよ」 「でも、先週も来たんじゃあ?」  妹の家庭教師は月2回、隔週でやっている。  僕の質問に伊達先輩は答える。 「来週、お城巡りで福島に行くでしょ? だから、今週にしてもらったのよ」 「そ、そうでしたか…」  まあ、家庭教師の事はどうでも良いのだが、VRゴーグルをかぶっているのを見られるのは少し恥ずかしいな。  伊達先輩は僕が手にしているVRゴーグルを見て質問をしてきた。 「それは何? ゲーム?」 「はい。これでVRのゲームができるんです…。かぶってみますか?」  伊達先輩は、VRゴーグル受け取ってかぶってみた。  今、場面は僕がやっている途中で、街の近くの草原のはず。  伊達先輩は、あまり反応しない。でも、首を少し振って風景がそれに合わせて移動するのを確認しているようだ。 「どうやって前に進むのかしら?」  伊達先輩が質問してきた。 「ああ、このリモコンを使うんですよ」  僕はリモコンを伊達先輩に手渡す。  伊達先輩はそれを使って移動しているようだった。  しばらくプレイした後、彼女はゴーグルを外した。  僕は感想を尋ねる。 「どうでした?」 「あまり、興味ないわね」  想定内の感想だ。  伊達先輩はゲームとかやらなそうだもんな。  そうこうしていると、妹が部屋にやってきた。 「恵梨香さん。お母さんが、お茶とお菓子が準備できたって。ああ…、お兄ちゃんの分もついでにあるよ」 「勉強はもう終わったんですか?」  僕は伊達先輩に尋ねた。 「ええ、今日はもう終わり」  という訳で、僕らは1階にゾロゾロと移動して、ダイニングテーブルの席につき、お茶とおやつを食べながら少し話をする。  伊達先輩が尋ねてきた。 「武田君のほうは、勉強はかどってる?」 「ええ、まあ、午前中は少し勉強してましたし」 「また、勉強見てあげるけど」 「ありがとうございます。でも、試験は2月なので、まだ大丈夫です」  試験前の勉強会は歴史研の恒例行事みたいになっていた。上杉先輩は勉強しないで漫画読んでるけどな。  妹が話題を変えてきた。 「お兄ちゃん、最近、週末に出かけてるけど、お城巡りじゃあないんだよね?」 「ああ、お城お巡りは来週だよ」 「どこに行ってるの?」 「どこでもいいだろ?」  伊達先輩が口を挟んでくる。 「この前言っていた、アイドルの手伝いをやってるの?」  それを聞いた妹は驚いた様子で大声をあげた。 「アイドル?! 手伝い?! 何それ?! 初耳なんだけど?!」 「まあ、言ってなかったからな」 「また、変なこと始めたね」 「別に変なことじゃあないぞ、バイト代ももらえるし」 「えっ?! お金もらえるの?!」  しまった、バイト代のことは言わないほうがよかったかな?  お礼程度だが、昨日は3000円もらった。  高校生に3000円は大金なのだ。 「じゃあ」  妹が嬉しそうに言う。 「私にお小遣いちょうだいよ」 「なんでだよ」 「ケチ」 「お前も、アイドルやればどうだ? 人気が出たら稼げるみたいだぞ」  適当な事を言ってみる。  伊達先輩が再び割り込んできた。 「美咲さんは、もうすぐ3年で受験だから、アイドルやるにしても、高校に入ってからにしたほうがいいんじゃないかしら?」  まあ、そうだよな。  妹が笑いながら答える。 「大丈夫です。私はアイドルやりませんよ」  次に、妹は僕を睨み見つける。 「そんなことより、アイドルに手を出さないでよ」 「そんなことする訳ないだろ?」 「お兄ちゃんはスケコマシだから、釘を刺しておかないと」 「スケコマシってなんだよ」 「だってそうじゃん、女子を2人も3人も侍らせてるじゃん?」 「そんなことはしていない」 「侍らせるといえば、毛利さんと、織田さんと3人一緒にお弁当食べてるんでしょ?」  と伊達先輩。 「なんで、知っているんですか?」  お弁当交換会の事は誰にも言ってないのだが…? 「新聞部のXに写真が載ってたわよ」  また、片倉先輩の仕業か?  いつの間に写真撮られたんだろ? 「お弁当交換会を週一でやってるんですよ」 「たまに、お弁当を自分で作っていると思ったら、女子にあげてたの?!」  妹が僕を睨みつけて言った。 「まあ、そう言う事だな」 「女子を落とす方法が、巧みになってる」 「落とすってなんだよ。ただ、一緒に弁当食べてるだけだろ?」 「お兄ちゃんは、手が早いから危険人物なんだよ!」 「なんでだよ、何もしてないだろ? それに仮に誰と付き合おうが僕の勝手だ」 「ちゃんと、1人と誠実に付き合ってれば良いんだよ。お兄ちゃんの場合は、4人も5人も同時につきあうから、許せないの!」 「付き合ってないって! それと、なんか、人数が増えてるぞ」 「まあ、武田君」  伊達先輩が嗜めるように付け加えた。 「女たらしも、ゲームもほどほどにね。学校の成績が下がるといけないから」 「はあ…」  たらしてない。そして、成績が落ちるとか、母親みたいな発言だな。  僕らはその後も、しばらく話をしながら、お茶を飲み、お菓子を食べる。  小一時間も経ったら話も尽きたので、伊達先輩は帰宅して行った。
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