雑司ヶ谷高校 執筆部
君の部屋を訪問します
 木曜日。  授業はすべて完了し、放課後となった。  今日はどこで時間を潰そうか?  先日のカフェも、毛利さんが付けてきて、すでに上杉先輩にバレてしまっているだろうし。  さて…?  などと自席で考え込んでいると、隣席の毛利さんが話しかけてきた。 「武田君、今日って、この後ヒマ?」  まあ、ヒマなのだが、歴史研にはアイドルとの打ち合わせなどで忙しいとウソついて幽霊部員を始めたので、この場合の回答は…。 「忙しいよ」 「そっか…」 「何か用だった?」 「うん…。たまには、一緒にお茶でもどうかなって思って…」  そういえば、毛利さんとは放課後にどこか行ったりすることは少ないような気がする。  2学期までは、彼女が図書委員がない日の週3日は部室で一緒だったけど。  たまには、お茶しに行ってもいいかな。 「じゃあ、いいよ」 「え? 打ち合わせは?」 「ああ…。今日は、打ち合わせが無かったのを思い出した」  と言う訳で、僕らは教室を後にした。  どこに行くかは、まだ決まっていない。  どうしようか?  下駄箱で靴を履き替える。  すると、聞いたことある声で名前を呼ばれた。 「武田さん」  顔を上げると、  大きな目で、長い髪の清楚な感じの女子。  ええと…。確か将棋部の…。名前は何だっけ…? 「あ…、こんにちは」  名前、思い出したぞ、成田さんだ。 「将棋はやってますか?」  成田さんは微笑みながら尋ねて来た。 「いや、最近はあまり…」 「そうですか。また、将棋部にも遊びに来てください」  彼女はタメなのに、いつも敬語だな。 「今日は、部活は?」 「今日も将棋会館に用があって、北参道駅まで行くんですよ」  ショーギカイカンって何だっけ?  まあ、いいや。 「そうですか…。頑張ってください」  僕がそう言うと、成田さんは微笑んで爽やかに立ち去った。 「今の、誰?」  横から毛利さんが尋ねる。 「ああ、将棋部の成田さんだよ。将棋が滅茶苦茶強い人。会ったことなかったっけ?」 「うん。廊下で見かけたぐらい」 「そう…」  毛利さんはちょっと不満そうにしている。  そういえば、北参道というワード、何か引っ掛かるな。  何だっけ? まあいいや。 「で、どこに行くの?」  毛利さんが尋ねて来た。 「ああ、そうだな…」  僕は考えを巡らせる。  そうだ!   都電荒川線の鬼子母神駅の近くにレトロな喫茶店があったな。以前、松前先輩に連れて行ってもらったところだ。  毛利さんは、ちょっと遠回りになるけど。 「いいところがあるよ」  と言うことで、僕らは連れ立って、そのレトロな喫茶店までやってきた。  空いていたので、1番奥の席に座る。  そして、僕らは1番安いコーヒーを注文した。  毛利さんが話しかけて来た。 「こんなところ、良く知ってたね」 「ああ、以前1度、来たことがあるんだ」 「誰と?」 「え…? 松前先輩だけど…」 「松前先輩って、確か…、占い研の?」  毛利さんは松前先輩と接点なかったっけ?  学園祭の占いメイドカフェの時ぐらいか。 「そうそう」 「なんでまた、松前先輩と?」 「ああ…。ちょっとね…」  悩みを聞いてもらったとか言わなくていいだろう。 「ふーん。武田君のまわりって女子ばかりだよね」  毛利さんは不満げに言う。 「そ、そんなことないよ」 「最近は校外の人ともよく会ってるみたいだし」 「いや、あれはアイドル活動の手伝いだけだし」 「アイドルの手伝いってどう言うことをするの?」 「そうだな…。ライブに立ち会ったり、物販の手伝いをしたり、楽曲制作の手配をしたり、活動についてアドバイスしたり…」  こうしてみると、なんか、自分、結構いろいろやってるな。  アドバイスはロクなことできてないけど。 「なんか、忙しそうだね。なんで、手伝いをやることになったんだっけ?」  え? なんでだっけ? 「えーと…、まあ…、成り行きで…」 「ふーん。楽しい?」 「楽しいと言うか…、仕事みたいなもんだよ」 「仕事…? 将来は、そう言う仕事に就きたいの?」 「いや、全くそんなことはない」  将来、何をしたいかは全く考えていないのだが、O.M.G.が生活できるほどの給料を払ってくれるなら、それもありかな…。  いや、O.M.G.って、夏までの活動なのでそれは無理か。  そうこうしていると、注文したコーヒーをウエイトレスのお姉さんが運んできた。  僕らは、1口、2口それを飲む。  再び毛利さんが尋ねてくる。 「昨日、織田さんと一緒に下校したけど、あれもアイドルの仕事?」 「うん、アイドルやってる細川さんが、織田さんに会って演劇について話を聞きたいっていうから、引き合わせたんだよ」 「ふーん…。最近、織田さんとはどうなの?」 「どうって…、何もないよ。織田さん、最近はショートムービーの撮影とかで忙しいみたいで、放課後も昨日以外は全然会ったりしてないし」 「そうなんだ」  そうなのだ、今年からは快楽を追求しようと思っていたのに、アテが外れている。  いや、待てよ…。毛利さんと快楽を追求してもいいんだよな。  とはいえ、イチャつける場所が少ない。  自室は妹の監視下にある。  学校内も上杉先輩、伊達先輩に鉢合わせになるかもいしれないし、新聞部の片倉先輩、小梁川さんもいるし、油断できない。  野外は、今は1月、寒すぎるし。  サンシャインシティ屋上がいいところなのだが…。暖かくなったら、あそこでイチャついてやろう…。 「そういえば、毛利さんの家って…。小竹向原だっけ?」  小竹向原駅は雑司が谷高校の最寄り駅である雑司が谷駅から4駅10分程度で行ける距離だ。 「そうだよ」 「今度、遊びに行ってもいいかな?」 「えっ?!」  その言葉に、毛利さんはとても驚いた様子。 「い、いいけど…」  僕は、面倒なので他人の家に行くことは滅多にないのだが、僕の部屋に歴史研のメンバーは散々来てる訳だし、たまには他の人の家に遊びに行っても良いのでは?  と思った。  そして、あわよくば、そこで毛利さんとイチャつけるのでは?  明日、金曜日は毛利さんが図書委員の仕事がある。  そして、週末はお城巡りだから…。 「来週月曜の放課後でどう?」 「良いけど…」 「よし、決まりね」  その後、僕らは学校の授業の話や世間話をしながら過ごす。  そして、夕方も遅くなって来たので、雑司が谷駅まで毛利さんを見送ってあげた。
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