雑司ヶ谷高校 執筆部
噓八百
 土曜日。  この週末はO.M.G.のライブもないので、その手伝いもなく、歴史研の城巡りもないので、久しぶりにゆっくりしている。  午前中。  引き出しにしまってあった怪文書を取り出して改めて読むことにした。  ◇◇◇  今年の雑司祭も上手くいった。  来年も上手くいくだろう。  来年は、  1.CROWNから奪う  2.F(人生、宇宙、すべての答え/3)に通う者への手紙を見ろ  もし、私を捕まえることができた者には報酬を与える。  報酬は1.57M。                            Р  ◇◇◇  “F(人生、宇宙、すべての答え/3)に通う者”  は、  “北参道駅に通う者”  だと想定する。  では、学校でこの人物を特定するには、どうすればいいのか?  北参道駅から通学する生徒を調べるために、生徒の住所を知るのがいいだろう。  生徒の住所を学校で教えてもらうことはできるのだろうか?  個人情報を、こんなことで教えてもらえるとは思えないが。  さらに考える。  生徒会なら、同様の情報は無いのだろうか?  生徒会長である伊達先輩に聞いてみようかな?  まあ、もしあったとしても個人情報という理由で、教えてもらえるとは思わないが。  まあ、ダメもとで月曜になったら、伊達先輩に聞いてみよう。  その日の午後は、マンガ読んだり、宿題したりして過ごす。  そして、VRゲームのMMORPG“色彩の大陸”をちょっと間が空いてしまったが、やることにした。  VRゴーグルにスマホを挟んで、ゲーム開始。  新しく期間限定イベントがいくつか始まっていた。  初心者向けイベントに、 『街の近くの森に出没する凶暴な熊“USO800”を退治する』  というもがあった。  レベルも少し上がっているし、ちょっと面白そうだし、熊ぐらいのモンスターなら1人でも退治できるのでは? と思ってやってみることにした。  という訳で、街の外へ出た。  弱い雑魚モンスターも、相変わらず出没するので撃退しながら進む。  僕のキャラのレベルは、それなりに上がっているので、これぐらいの雑魚キャラは一撃で倒せるようになっていた。  さらに進んで、森の中に入って行く。  森の中で会うモンスターは、さすがに一撃では倒せないな。  しかし、何とか退治しつつ進む。  しばらくプレイしていると、誰かに肩を叩かれた。  なんだ、プレイ中に。  また、妹か?  と思いつつ、ゴーグルを外す。  そこには、あろうことか上杉先輩がいた。 「わっ! 上杉先輩!」  僕は驚いた。 「アタシに会えて嬉しいからって、そんなに驚かないでよ」  上杉先輩はニヤつきながらいう。  別に嬉しくない。  僕は尋ねる。 「なんで、ここに居るんですか?」 「美咲ちゃんと遊んでたんだよ」 「そうですか」  妹と遊ぶのは良いのだが、僕に会いに来ることはないだろうに。 「で、それ、なに?」  上杉先輩は僕が手にしているVRゴーグルを指さして尋ねた。 「これは、VRゴーグルです。これで、ゲームをしているんですよ」 「へー、ちょっとやらせてよ」  上杉先輩は僕の手からゴーグルを取り上げて、自分の頭にかぶった。 「おおー。画面、綺麗だね。なんか、森の中?」  上杉先輩はそういって、首を左右に振って、異世界の風景を堪能している。 「前に進むのは、どうするの?」  上杉先輩が尋ねて来たので、僕はリモコンを手渡す。 「これで、動けますよ」  上杉先輩はリモコンをイジっている。 「ああ、なるほどね」  僕は、しばらく、上杉先輩がプレイしているのをみている。 「ん?!」  上杉先輩が声を上げた。 「なんか、熊が出て来たよ!」 「退治してください!」 「えっ!? えっ!? どうやるの?」 「剣で切りつけるんです!」 「ギャー! 熊に襲われる!!」 「攻撃! 攻撃してください!」 「ギャー!!」  上杉先輩はじたばたするけど、しばらくしておとなしくなった。 「死んだみたい」 「えええー…」 「死んだらどうなるの? ゲームオーバー?」 「いえ、最初の街の広場に戻されるだけです。しばらくしたら再プレイできます」  上杉先輩はゴーグルを外した。 「すごかった、本物の熊に襲われてるかと思ったよ…。それにしても、このゴーグル、高いんでしょ?」 「いえ、それほどでもないですよ」  などと話をしていたら。  妹が部屋に入って来た。 「今の悲鳴、何?」  妹は僕と上杉先輩を見て言った。 「紗夜さん、また、お兄ちゃんに何かされたの?」 「うん。襲われてた」  上杉先輩は答える。 「何、言ってんですか!? 熊でしょ! 熊!」  僕は否定する。 「こんなところに熊なんかいるわけないじゃん! 犯罪者!」  妹は叫んだ。 「冗談、冗談。ゲーム内の熊に襲われてたんだよ」  上杉先輩は笑いながら言う。 「その冗談はひどすぎます」  僕は文句を言う。  妹は怒りながらいう。 「紗夜さん! お兄ちゃんは何人もの女子に手を出しているし、このままだと、お兄ちゃんは性犯罪者になるかもしれないから、何とかしないといけないと思うんです!」 「だよね」  上杉先輩は相槌を打った。  なんで、『だよね』なんだよ。  そして『性犯罪者』になりそうとは、どういうことだ? 「お兄ちゃんをまた奴隷にして、調教して下さい!」 「うん。任せといて」  上杉先輩は胸を叩いた。 「いやいやいやいや。奴隷はもうやりませんって」 「さっき、私の事を襲ったくせに」 「捏造だ!!」 「冗談、冗談」 「上杉先輩の冗談は、冗談にならないからやめてくださいよ!」  僕は文句を言う。  そんなこんなで、アホな会話は適度に終了させると、上杉先輩と妹を部屋から追い出してゲームを再開した。  今度は、ちゃんと熊を退治しないとな。
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