雑司ヶ谷高校 執筆部
頭文字P
 僕と毛利さんは、新聞部の部室を後にした。  げた箱付近で靴を履き替えていると毛利さんが提案してきた。 「ねえ…、この後、どこか寄って行かない?」 「じゃあ、えーと…。この前、行った喫茶店に行こうか」  新聞部では1時間と少し話した程度なので、まだ時間に余裕がある。  ということで、以前も毛利さんと一緒に行った鬼子母神の近くのレトロな喫茶店にやって来た。  喫茶店は今日も空いていて、僕らはこの前と同じ一番奥の席に座った。  そして、一番安いコーヒーを注文。  注文後、毛利さんは怪文書について話題にする。 「最後の差出人の“P”だけど、もし名前の頭文字だとしたら、ちょっと変だと思わない?」 「え? なんで?」 「苗字や名前がパ行で始まる人って、いると思う?」 「そう言えば…。あまりいないかも…。じゃあ、日本人じゃあないとか? または、人名じゃないということ?」 「ハーフとか、外国出身の生徒かもしれない」 「もし、そうだとすれば見つけるの簡単じゃない? 学校には多分数人しかいないでしょ。また、片倉部長にお願いしておくよ」 「後は、CROWNも何か特別な意味があるんじゃあないかな?」 「“王冠”じゃあなくて?」 「そうね、推理小説でよくあるのは、文字を並べ替えて別の意味になるとか…」  CROWNのスペルを頭の中で思い浮かべ、それを並べ替えたりしてみる。  5文字の組み合わせは、5!=120通りか…。  しばらく考えるが、良い単語が思いつかない。 「うーん…。わからないな」  後で、紙に書き出しながらやってみよう。  毛利さんは話題を変えた。 「あと、さっき新聞部でイケメンコンテストの話の時、なんか嫌な顔してたけど、どうして?」 「ああ…。ちょっと、嫌なことを思い出したんで…」 「何? それって」 「うーん…」  まあ、話してもいいか。  秘密にするまでもないし。それに、もう解決しているし。 「去年、北条先輩に脅されていたんだよ」 「えっ?! どうして?」 「彼は伊達先輩に恨みを持っていて、副会長である僕に生徒会をスパイしろって脅してきたんだよ。それで、生徒会の運営の邪魔をしたかったみたい」 「でも、スパイなんでする理由、武田君にないよね?」 「雪乃に…、危害を加えるみたいな事を言ってたから…、それでやむなく」 「そうなの?!」 「だけど、それは片倉部長のおかけで解決したから、もう大丈夫」 「えー、全然知らなかったよ」 「だれにも言わなかったからね。巻き込んでも悪いし」 「そっか…。大変だったね」 「いいよ。もう、その話は忘れたいから…」 「わかった、ごめん」  少々重い空気になってしまった。  そこへウエイトレスがコーヒーを運んできた。  僕らはそれを飲みながら、世間話をしつつ小一時間ほど過ごす。  今日のコーヒー代は、奢ってあげた。O.M.G.の手伝いのバイト代があるので財布の中身が潤沢なのだ。  そして、毛利さんを雑司が谷駅まで送ってから帰宅した。  夜、用事をすべて終わらせた後、自室で“CROWN”の文字をメモに書き出して、いろいろ組合せを考えてみる。  しかし、意味のある単語にすることはできなかった。  ということは、やっぱり、“王冠”のことなのか?  それとも、片倉部長が言っていたように優勝賞品一般の事なのかもしれない。  答えが見つからないので、謎解きは辞めて、その後はのんびりしつつ、スマホいじりをしている。  先ほど、毛利さんと話をした差出人“P”についての内容を片倉部長に送る。  すぐに返事が着て、心当たりを当たってくれるそうだ。  そのまま、しばらくスマホいじりをしていると、真帆からLINEメッセージが。 『明日の放課後、時間ある?』 『あるよ』 『じゃあ、放課後いつものところに集合ね♡』 『りょ』  また呼び出しだ。  最近は特にアイドル活動についての話はさほどしないよな。まるで、デートだ。  まあ、暇だからいいけど。  間髪入れずに別のメッセージが。  アイドルの“春日局”こと、徳川さんからだった。 『O.M.G.さん、月末に名古屋に遠征行くでしょ? 私も同じライブに出演することになったから』 『そうなんですか?!』  驚いたな。まあ、そういう事もあるのか…?  まあ、東京でも同じライブに出演していることがあるから、遠征で同じライブに出ることもあるんだろうな。  そう言えば、こういったライブの出演ってどうやって探すんだろ。  先日の郡山の時は、現地のイベンターから声を掛けられたとか言ってたけど。  名古屋もそうなのかな…?  まあ、いいや。明日、真帆に聞いてみよう。  続いて徳川さんからメッセージ。 『名古屋でも、よろしくね』 『こちらこそよろしくお願いします』  メッセージのやり取りが終わり、もう眠くなってきたので、今日のところは寝ることにした。
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