雑司ヶ谷高校 執筆部
噓八百再び
 勉強会が終わり、夕食を食べて、諸々の用事を済ませる。  夜は、悠斗と一緒にVRMMORPG“色彩の大陸”をプレイすることになっている。  すっかり忘れていたのだが、今日は建国記念日で、明日は振替休日で休みとなっている。そのことを、夕食時に妹の美咲に言われて気が付いて、妹にバカにされた。  そんなこんなで、今夜は少々遅くまで、悠斗と一緒にVRゲームプレイすることになった。  今回は、以前合コンで一緒だった、六角雄一君も一緒にプレイすることになっている。  約束の時間になったら、VRゴーグルを装着してゲームにログインする。  目の前に広がるのは、いつもの初めの街の広場。中世ヨーロッパ風の街並みが見える。  広場は、多くのプレイヤーが参加して混雑しているが、しばらくして、悠斗のキャラクター“ジス”がチャットで声を掛けて来た。 『やあ、純也、来たね』 『やあ、六角君は?』 『そこにいるよ』  近づいてきた男性キャラクター。  見ると、剣士じゃあないか。彼も剣士を選ぶとは。  人のことは言えないが、3人とも剣士でパーティ組むのってバランス悪すぎないか…?  しかし、悠斗と六角君はそんなことは気にしていない様子。 『よろしく』  六角君のキャラが話しかけて来た。  ステータスを見る。  キャラ名は“ヘクサ”  攻撃力を強めにステ振りしているようだ。    悠斗が提案する。 『一雄は、まだレベルが低いから、街の近くを中心に回って経験値を稼いでいこう』  僕と六角君はそれに賛成して、移動開始。  雑魚敵が出て来る街の近くをウロウロ。  敵を倒したり、休んだりを繰り返して1時間半ほどだっただろうか、少し六角君のレベルも上がったところで、悠斗が別の提案をする。 『初心者向けのクエストで凶暴な熊“USO800”を倒すというのがあるけど、やってみる? 俺もまだやってないから』 『まだ、ちょっと、不安だなあ』  六角君が言う。  彼は、まだ初めて日にちが経ってないそうだからな。初心者向けクエストとはいえ、1人だとしたら難しいだろう。  しかし、今回はそれなりにレベルが上がっている悠斗と僕がいる。 『大丈夫でしょ? 俺たちがフォローするよ』  悠斗が言うので、皆でUSO800が居る森に向かう。  先日、このクエストで僕は1人で森に向かったが、途中、上杉先輩に邪魔されて、クエストは終えることをせずに、そのままとなっていた。  改めての挑戦だ。そして、今回は3人だ。楽勝だろう、多分。  森の中で出会うモンスターは、ちょっと手強い。  僕と悠斗は、六角君をフォローしながらモンスターを倒しつつ森の中を徘徊する。  30分以上うろうろしただろうか、突然、森の中で黒い影が立ち上がる。 『えっ?!』  僕は驚いた。  巨大な熊がそこにいた。  そして、その予想以上の巨大さにかなり驚いた。  先日は、上杉先輩しか、この巨大熊を見ていない。  熊というから、リアルな熊を想定していたが、ここはファンタジーの架空の世界だ。USO800は、リアル熊の2倍は巨大だった。  かなり見上げないと頭が見えない。 『なんだこれ、めっちゃデカイ!』  六角君が狼狽した。 『ともかく攻撃だ!』  悠斗が合図すると共に、3人は剣でUSO800に切りつける。  六角君が熊のパンチを食らった。  HPが一気に80%近く削られてしまった。 『まずい!』 『いったん下がって、ポーションで回復を!』  悠斗が指示する。  僕は、素早さに極振りしたおかげで、USO800の攻撃は当たってない。しかし、僕が攻撃して与えるダメージは少ないのだが。  悠斗はダメージを食らいながらも効果的にUSO800のHPを削っている。  その後も、3人でギャーギャー言いながら攻撃する。そして、しばらくして何とかUSO800を倒すことができた。  そして、経験値を得てレベルアップした。なんかのアイテムも入手した。  元々レベルが低かった六角君は、これで何段階もレベルアップしたようだ。  しかし、今回は何とかクエストをクリアしたが、HP減るたびに回復の為に一旦戦闘から離脱するということになるのは問題あるのでは?  今後はパーティにヒーラーや魔術師がいないと進めるのは難しいのではないだろうか? 『これ、初心者向けクエストじゃあないでしょ?』  悠斗が文句を言っている。 『あとで運営にクレームのメールを入れておくよ』  そこで、ゴーグルを誰かに外された。  正面に妹が、また怒り顔で立っていた。 「うるさいよ!! 何時だと思ってるの?! 近所迷惑でしょ!!」  怒られた。  時計をみたら23時。 「悪い。今、悠斗たちと一緒にやってたんだ」 「えっ? 悠斗さんがいるの?」  そう言うと、妹は僕からVRゴーグル奪い取ると、それをかぶって悠斗と会話しだした。  小学生の頃は、悠斗と妹と僕の3人でよく遊んでいたので、妹と悠斗はよく知っている関係だ。 「こんばんは、美咲です」 「悠斗さん、久しぶりです」 「あっ、六角さん…、はい、合コンにいた冴えない男の妹です」  などと、妹は僕のキャラクターを使って、彼らと親し気に会話している。  しばらく会話した後、もう満足したのかゴーグルを手渡してきた。  僕はちょっと嫌味を言う。 「イケメンは、めんどくさいとか言いながら、悠斗が気になるのかよ?」 「違うよ! 悠斗さんとは、今年はまだ話してないから、挨拶したかったの!」  まあ、妹が悠斗のことが好きだろうが何だろうが、別に構わないけどな。  妹は怒りながら部屋を出て行った。  夜も遅くなったので、3人で話し合って今日のところはゲーム終了とした。
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