雑司ヶ谷高校 執筆部
交換条件
 翌日の月曜日、建国記念日の振替休日で休み。  今月は、末にも天皇誕生日と土日あわせての3連休があるから、2回3連休があることになるのか。ちょっと得した気分。  昨夜はVRゲームをやって、なんやかんやで少し遅めに就寝したので、起きたのは午前10時少し前だった。  僕は起き上がると、寝間着のまま2階の自室を出て、朝食を食べようと思い1階のダイニングに向かう。  台所には妹と、妹の友達の卓球少女、前田さんが居た。  何やら料理をしている様子。 「あっ、お兄ちゃん、起きたの?」  僕に気が付いて妹が声を掛けて来た。  そして、前田さんが挨拶する。 「お兄さん、こんにちはー」  しまった、家族以外に寝間着姿を見られるのは、ちょっと恥ずかしいな。  いまさら、もう遅いので諦めて、挨拶を返す。 「こ、こんにちは…」  リビングに両親の姿がないので、妹に尋ねた。 「親父たちは?」 「買い物に出かけた。午後に戻るって」 「そうか…」  僕は妹たちに近づいて、尋ねた。 「何、やってるんだ?」 「バレンタインのチョコを作っているんだよ。明後日、バレンタインデーだからね」  そうだった。 「お前、以前、同学年の男子はガキっぽいから、どうのとか言ってなかったけ?」 「男子にあげるわけないじゃん! これは“友チョコ”! 女の子同士で交換するためだよ」 「あ、そう」  まあ、どうでもいいけどな。 「お兄さんには、あげますよー」  前田さんは、そう言って微笑んだ。 「私のは、あげない。お兄ちゃんは、もうすでに、たくさんもらってるから」  と、妹。 「すごーい! お兄さんって、モテモテなんですねー」 「たくさんって、2つじゃん。しかも義理だし」  2人が作業しているのを少し見ていると、市販のチョコを溶かして、それを型にはめるだけの作業。  僕は2人との会話を適当に終えて、朝食にミニサイズのカップ麺を食べて、リビングルームのソファに座ってTVをしばらく見ている。  そう言えば、一昨日、O.M.G.と徳川さんにもらったチョコがあったな。  台所に行き、冷蔵庫に保管していたチョコを取り出した。これも手作りなんだよな。  それにしても、女子たちはマメだなあ…、などと考えながら再びソファに座ってチョコを食べる。  美味しい。  1時間程経って、台所の2人は最後にチョコを冷やすためにそれらを冷蔵庫に入れると、妹の部屋に行ってしまった。  僕は、TVを見ながら“昼飯はどうしよう”などと考えていると、さらに1時間が過ぎて正午。  妹と前田さんが、バタバタと台所にやってきて、冷蔵庫を開けて冷やしているチョコを確認する。  どうやら完成したらしい。  そして、ダイニングテーブルにそれらを置いて、今度は袋詰めを始めた。  しばらくすると、前田さんが近づいてきて、ハート型の小さなチョコが3個入った透明な袋を手渡してきた。ちゃんと、リボンで閉じてある。 「あげますー」  前田さんは微笑む。 「あ、ありがとう」 「食べてみてくださーい」 「え…、うん」  僕は袋を開けてチョコを1つ頬張った。 「どうですかー?」 「美味しいよ」 「チョコ、食べましたねー?」  前田さんは、ちょっと意味ありげに尋ねて来た。 「いや…、君がくれたから、食べたんだよ」 「私のお願い聞いてほしいんですけどー」  なんだよ、そういう事かよ…。  まあ、内容次第では聞いても構わないけど。 「お願いって、何?」 「私と卓球勝負してくださーい!」 「えっ!? やだよ。てか、君に勝てる訳ないじゃん」 「お兄さんは、天才卓球少年なんでしょー? 実力を知りたいですー」 「天才というのはデマだ」  妹が割り込んでくる。 「いいじゃん、1回ぐらいやれば?」  まあ、そうだな…。  1回やってみて、僕の下手さがわかれば “天才卓球少年”とか、2度と言わなくなるだろう。そして、もう卓球勝負しようとか言ってこなくなるし。 「しょうがないな…。いいよ、1回だけなら。それで、どこでやるの?」 「後で、池袋のラウンドワンに行きましょー。卓球できますからー」 「後でって、今日やるの?」 「そうですよー」  なんだ、今日は1日家でゆっくりしたかったのに…。  やれやれと、思って再びTVを見る。  次に、妹が近づいてきた。 「お兄ちゃん、お昼ご飯作ってよ」 「僕が?」 「そうだよ」 「なんで?」 「チョコ、もらったでしょ?」 「お願いは、卓球行くので終わりだろ?」 「チョコ、3つ入っているから、あと2つ聞くんだよ」 「なんだよ、それ…。てか、このチョコは、お前からもらったんじゃあないだろ?」  そこへ前田さんが割り込む。 「お昼作ってださーい」  全く、しょうがないな…。  まあ、自分も何か食べたいと思っていたし、連続でカップ麺も飽きるしな。  いまいちやる気が出ないが、重い腰を上げて台所に行き、冷蔵庫の中を確認する。  炊飯器の中も確認。残っているご飯がそれなりにある。  材料がそろっているので、久しぶりにオムライスを作ることにした。  というわけで、何とか出来た3人分。  久しぶりだったから、うまく作れるか分からなかったが、意外に体が覚えているもんだなと。 「美味しいですー」  前田さんが食べながら言う。  オムライス作りは、学園祭の前に歴史研のメンバーに特訓させられたから、無駄に上手くなっている。 「そう、ありがとう」 「お兄さんのオムライス、2回目ですー」 「えっ?! そうだっけ?」 「学園祭の時、食べましたー。料理、上手なんですねー」  そうか、前田さんは学園祭の時に来てたんだな。忘れてた。  昼食を終え、後片付けをしていると、両親が帰宅した。  それと入れ替わりに、僕、妹、前田さんは池袋に卓球をしに出かける。
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