雑司ヶ谷高校 執筆部
冷熱の卓球男~その1
 僕、妹の美咲と前田さんは、自宅から徒歩で池袋までやって来た。  前田さんによると、卓球が出来る場所があるという。  そこへ到着して受付をした後、少し待って、卓球台の置いてある場所へ移動する。  卓球台は2台。僕らは1つを利用する。  もう1つの台は、他のお客もおらず、今は使われないようだ。  ここでは、ラケットも玉も貸してくれる。  前田さんは部活では通常マイラケットを使うらしいが、今日は家に置いてきたらしい。  まあ、前田さんと妹は、今日はチョコづくりがメインだったからな。    早速、僕は卓球台のそばに歩み寄り、ラケットを構える。  対戦相手は、当然、前田さん。  すでに、かなり熱が入っているようだ。  一方の僕の熱は上がらない。  それより、前田さん、今日、スカートだけど大丈夫なのかな?  丈が長めのスカートなので、めくれることは無さそうだけど。  妹は得点ボードの横に立って、得点係。 「じゃあ、行きますよ!」  前田さんのサーブ。  玉が打ち出された。  彼女のフォームを見て、僕は瞬時に分析する。  このサーブは、確か横回転サーブ。  横スピンが効いているので、玉が台に着いたら外側に跳ねるのだ。  年末に、上杉先輩の奴隷をやっていた時に、命令で卓球をやらされ、卓球部の福島さんに教えてもらったなぁ。  こういう玉の返し方を教えてもらったような気がする。  あの時の福島さん、あたりも柔らくて、教え方もうまかった。  結局、卓球をやったの3日ほどだが、夏休みに卓球の合宿に付き合わされたこともあって、卓球の初歩の初歩は知識としてある。  それで、年明けに、福島さんは、僕をミックス(混合)ダブルスの試合に一緒に出ようとに誘ってきた。  まあ、当然、断ったけど。  現在の前田さんは、かなり気合が入っている。  目つきが、さっきまでと全然違う。別人だ。  よっぽど卓球が好きなんだろう。  それに対して僕はやる気ゼロだ。  適当にやって、さっさと終わらせて、帰ってゆっくりしたい。  寝るかVRゲームでもやって、またチマチマとレベル上げをやりたい。  しかし、ここで適当にやり過ぎても、何か文句言われそうだしな。  特に、妹が黙っていなさそうだ。  妹が、文句を言いだすとうるさい。  さっき、もらって食べたチョコを返せ、とか言いそうだし。  でも、食べてしまったものを返せるわけもなく…。  かなり長めの押し問答が始まりそうだ。それは、嫌だなぁ…。  ここは少しだけでもやる気があるように見せた方がいいのか。  そして、負ける。  よし、そうしよう。  ここまで0.1秒。  玉が手前に落ちる。  想定どおり、僕の左側に曲がるように跳ねた。  やる気のない僕は、やる気があるところを見せるために、とりあえず適当にラケットを出す。  玉は、僕のラケットの先端にわずかにかすって、全然違う方向に弾かれて玉は床に落ちた。 「いやー、すごいサーブだねー(棒)」  僕はそう言って、再びラケットを構える。  再び、前田さんのサーブ。  彼女の目つきが、いつもと違いすぎて卓球よりも、そっちが気になる。  前田さん、普段はトロそうなのに、卓球の時は別人のようだな。  おや、さっきとフォームが違うぞ。  彼女のフォームを見て、僕は瞬時に分析する。  このサーブは、確か下回転サーブ。  年末に、福島さんに教えてもらったなぁ。  縦スピンが効いているので、玉が台に着いたらサーブした側に、戻るように跳ねるのだ。  年末に、上杉先輩の奴隷をやっていた時に、命令で卓球をやらされた時、卓球部の福島さんに教えてもらったなぁ。 (中略)  ここは少しだけやる気があるように見せた方がいいのか。  ここまで0.1秒。  玉が手前に落ちる。  想定どおり玉は前田さんの方に戻るように跳ねた。  やる気のない僕は、とりあえず適当にラケットを振る。  僕のラケットは虚しく宙を切り空振りとなった。 「いやー、すごいサーブだねー(棒)」 「お兄ちゃん!!」  横から、妹は叫んだ。 「真面目にやりなよ!!」 「そーですよー」  前田さんもクレームを言う。 「だって、棒立ちですもーん」  やっぱり、やる気の無さが出てたか。  仕方ないので、とりあえず弁解する。 「でもなあ、そうは言っても、やる気が出ないんだよ」 「確かに、トロフィーとかが無いとやる気が出ないですよねー」  前田さんがそう言って少し考える。  いや、トロフィーがあってもやる気は出ないけどな。  しばらく考えたあと、前田さんが再び口を開く。 「じゃあ…、お兄さんが勝ったら、何でもいうこと聞いてあげますー」  その言葉を聞いて、妹が再び叫んだ。 「のぞみん、だめだよ!! このエロ男に『何でも』とか言ったら、エロいことされるにきまってるじゃん!! お嫁に行けなくなるよ!!」  僕は妹に向かって言う。 「そんなことするわけないだろ」  そんなことになったら、エロいことするけど。  でも、本気でやっても勝てる可能性はゼロだろう。 「でも、私が勝ったら…」  前田さんは笑顔で言う。 「お兄さんに、何でも言うことを聞いてもらうということでー」 「そんなの僕が勝てるわけがないから、何でも言うこと聞くで確定じゃん」  僕は文句を言った。 「じゃあ、もう勝負なしで、のぞみんの奴隷になりなよ」  妹が、ありえないことを言いだした。 「なんでだよ?」 「それでもいいけど、本当は、お兄さんの天才ぶりを見たいんですー」  前田さんがいう。 「じゃあ、お兄ちゃんが負けたら、また紗夜さんの奴隷を1か月やるということにしたら?」 「なんで、上杉先輩が出てくるんだよ!」  まったく、何を言い出すんだ。あり得ない提案だ。 「お兄ちゃんの場合、これぐらいじゃないと罰にならないでしょ!?」 「もう、帰っていい?」 「逃げるな!」  妹が僕に近づいて、腕を掴んだ。 「待ってくださーい!」  前田さんが改めて提案する。 「じゃあ、私の奴隷を1か月やるということでどうでしょー?」 「やだよ」 「じゃあ、なんだったらいいんですかー?」  などと押し問答をしばらくしていたら、隣の卓球台に別のお客の団体数人がやってきたようだ。  そのうちの1人が声を掛けてきた。 「武田君じゃん?」
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