雑司ヶ谷高校 執筆部
冷熱の卓球男~その2
 僕は、名前を呼ばれたので振り返った。  そこにはなんと、卓球部の福島さんが立っていた。  今日、福島さんは私服でジーンズに白いセーターを着ている。  彼女の後ろには、知らない彼女の友達(?)2人がいた。 「や、や、やあ…」  僕は突然のことで、ちゃんと返事ができなかった。 「まさか、ここで武田君に出会うとは」  福島さんも驚いている様子。 「あんなに卓球嫌がっていたのに」 「べ、別に、す、好きで来たわけじゃあない」  次に福島さんは、僕と妹を見てちょっとニヤつきながら言う。 「ところで、こんなところででも手を繋いでいるなんて、仲いいね。彼女?」 「えっ!?」  さっき妹が僕の腕を掴んで、そのままだった。  妹は、慌てて僕の手を離す。 「ち、ち、違います!! 彼女じゃありません!!」  妹は真っ赤になって答えた。 「こ、こいつは、妹だよ」 「妹?」  福島さんは再び驚いた表情で言う。 「似てないね」  どうせまた、似てなくてよかったねとか思っているんだろう。 「それで、どうしてこんなところに居るの?」  福島さんは尋ねた。 「あのですねー」  ここで、前田さんが割り込んできた。 「お兄さんと卓球勝負をしに来たのに、真面目にやってくれないんですー」 「へー。それで、あなたは?」  福島さんは尋ねた。 「あっ、始めまして。私は、お兄さんの妹の友達で、前田と言います」 「私は福島。あなたは、卓球やってるの?」 「はい! 中学で卓球部所属ですー」 「私も雑司が谷高校の卓球部なのよ。去年、私が武田君にちょっとだけ卓球を教えたんだけど」 「えっ! 雑司が谷高校の卓球部と言うと、顧問は、あの島津綾香さんですよねー?!」 「そうよ」 「すごーい。私の憧れですー」  前田さんと福島さんは島津先生談議に花が咲き始めた。  話が、僕との卓球勝負から逸れそうだ。  しめしめ。  福島さんと一緒に来た友達(?)2人は、隣の台で卓球を始めていた。  前田さんと福島さんの島津先生談議が一段落したら、福島さんは尋ねた。 「それで、どうして、武田君とここに居るの?」  あーあ。  話が戻ってしまった。 「そうでしたー! お兄さんと卓球勝負をしたくて来たんですー」 「武田君、強いよ」 「やっぱり! その強さを知りたいのに、やる気を出してくれないんですー」 「確かに、武田君に火を点けるのはなかなか難しいわね。いつも冷めてるというか」 「私が『勝負に勝ったら、なんでもいうことを聞いてあげる』って言ってるのに」 「それは、ダメよ。“エロマンガ伯爵”の武田君に『何でも』って言ったら、貞操の危機よ」  妹と同じようなことを言ってるな。  そして、“エロマンガ伯爵”って久しぶりに言われたぞ。 「じゃあ、前田さんと勝負して、武田君が負けたら卓球部に入部するのはどうかしら?」  福島さんが提案する。 「ええっ!?」  勘弁してほしい。そんなの受け入れたら、卓球部に入部確定じゃないか。 「お兄さんと勝負出来たら、私はそれでもいいですー」  前田さんはその提案に賛成した。 「お兄ちゃん、いい加減しないと、一生ここに居ることになるよ! それで、ここの卓球台のレンタル代はお兄ちゃんが払うんだよ!」  妹が怒鳴る。 「そんな無茶を言うなよ…」  そして、僕はため息をつく。  もう、押し問答に疲れて来たので、仕方なくこの提案を受け入れることにした。 「わかったよ、それでいいよ。勝負しよう」  絶対に負けられない勝負になってしまった。  勝負の前に、僕に福島さんが歩み寄って来た。  彼女は色々アドバイスをしてくれる。  なんで、アドバイスしてくれるんだろう。僕が負けて卓球部に入部した方が良いと思っているはずなのに。  良く分からんな。  僕と前田さんは、卓球台を挟んで対峙する。  福島さんと妹は台の横で勝負の行く末を見届ける。  11点先に取った方が勝ち。  そして、負けられない勝負が始まる。  サーブは、前田さん。  彼女は真剣な表情でラケットを構えた。
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