雑司ヶ谷高校 執筆部
冷熱の卓球男~その3
 負けられない卓球勝負。  前田さんが真剣な表情でサーブを繰り出す。  今回も縦回転サーブ。    僕は以前、福島さんに教えてもらった対処法でその玉を打ち返す。  そして、玉は勢いよく前田さん側の台を跳ねた。  前田さんは、動く事ができずに玉を見送った。  1-0  前田さんは、とても驚いている様子。 「お兄さん、すごーい!」 「まぐれだよ、まぐれ」  前田さんは、あっさりと返されるとは思っていなかったのかもしれない。 「武田君、この後も教えた通りにね」  台の横で勝負を見ている福島さんが嬉しそうにアドバイスしてくる。 「お、おう…」  続いて前田さんのサーブ。  僕は返すが、今度は前田さんはそれを打ち返してきた。  少しラリーがあって、結局、僕は玉を打ち返せずに点を取られた。  1-1  お次は、僕のサーブ。  短いラリーがあって、最後は僕の返した玉が明後日の方向に飛んで行った。  1-2  再び僕のサーブから。  先ほど同じように、短いラリーのあと僕が玉をそらした。  その後もラリーがありつつも、次々と点を取られ続けて、  1-5  となった。  やっぱり一番最初のは、まぐれだったか。  このままだと、卓球部入部確定じゃあないか…。  サーブ権が僕に来た。  なんか、良い手は無いか?  そうだ!  以前、球技大会の時に、福島さんに対して使った手があった!  卓球台のヘリを狙ってイレギュラーにするという作戦を使おう。  今度も、この卑怯な作戦を正々堂々と採用する。  僕は玉を繰り出した。  しかし、狙ったヘリにはいかず、普通に台を跳ねた。  そして、しばらくラリー。  結局、僕は返せず、点を取られた。  1-6  もう一度、ヘリ狙いだ。  玉がサイドのヘリに当たってイレギュラーとなった。  前田さんは何とか玉を拾う。  その玉に勢いはない。僕はスマッシュする。  それを前田さんは返すことができなかった。  よし、この調子だ。  2-6  その後、ヘリ狙い作戦がうまく行ったり、僕の目が少し玉の速さに慣れて来たのか長いラリーの末に点を取ることができることもあったりして、点を取られつつも、調子よく点を取ることが出来た。  6-9  次は、かなり長いラリーの末、点を取られた。  6-10  そして試合はマッチポイントとなった。  前田さん、ちょっと息が上がって来た?  長いラリーが多くなってきたからな。  そして、あと1点でも取られたら負け確定。卓球部入部となる。  なにがなんでも、それは避けたい。  僕は前田さんに提案する。 「1点=100円で売ってくれない?」 「へ?」  突然の提案に前田さんは困惑している。 「あと5点で僕の勝ちだから、500円で5点買うよ」 「ダメですよー」と前田さん。 「ダメよ」と福島さん。 「卑怯者!」と妹。  まあ、ダメだろうな…。わかってたよ…。  サーブ権は前田さんに代わる。  僕は構える。  前田さんの打ち出した玉を打ち返す。  そして、またまた長いラリー。  僕の球がネットに上の端に当たり、辛うじて前田さんの側へ落ちた。  前田さんはそれを拾えなかった。  7-10  前田さん、長いラリーが続いているので、だいぶへばってきているようだ。  これは、ひょっとして勝てるのでは?  そして、ヘリ狙い作戦も続行する。  前田さんがサーブを繰り出す。  縦回転サーブ。  僕は打ち返す、玉は勢い良く前田さんの横をすり抜ける。  その後も、ラリーがありながらも僕が点を取り続け、ついに…。  10-10  よし。あと1点。  スタミナ切れの前田さん、もう無理そうだ。  そして、僕が1点を取った。  11-10  試合終了だ。 「やった! 勝った!」  卓球部に入らなくて済んだので、思わずガッツポーズをしてしまった。 「待って、デュースだから、もう1点取らないと勝ちにならないわよ」  福島さんが注意する。 「そうなの…?」 「お兄ちゃん、ルールも知らないの?」  妹が軽蔑のこもった口調で言う。  知るわけない。  しゃあないな。でも、あと1点ぐらい取れそうだ。  前田さん、だいぶお疲れのようだし。  という訳で、最後は短めのラリーで1点取れた。  12-10  今度こそ本当に試合終了。  勝った。卓球部に入れさせられなくてよかった。  僕が安堵のため息をついてホッとしていると、妹が文句を言ってきた。 「お兄ちゃん、年下の中学生に本気を出すなんて大人げないよ」  どないせいっちゅうねん。  そして、高校1年生は大人じゃない。 「卓球部入部は、無しね」  福島さんは、残念そうに言う。 「でも、ほとんど練習してないのに凄いわね。入部して本格的にやったら、世界も狙えそうね」  それは嘘だろ?  入部は、しないからな。 「お兄さん、やっぱり、凄いですねー」  前田さんも褒めてくれた。  ともかく、今回は、妹が言うように年齢差、体力差の勝利だな。  それに前田さん、そもそもそんなに強くないのでは?  しらんけど。 「じゃあ、負けたので、お兄さんのお願いをなんでも聞きますー」  前田さんが、僕に近づいてきて言った。 「ダメだよ! 『何でも』は! エロいこと言うに決まってるから!」  妹が叫んで、前田さんの服を掴んで後ろに引っ張る。  エロ以外では何も思いつかないので、 「まあ、考えとくよ」  とだけ言った。 「エロいのは無しだからね!」  妹が釘を刺してきた。  僕と妹と前田さんは、自販機でジュースを買って、そばのベンチで座ってしばらく休む。 「じゃあ、もういいだろ? 帰ろうか?」  疲れた僕は、早く帰って休みたいので言った。 「レンタルは1時間で、まだ少し時間があるから、休んだらもう少し遊んでいきましょー」  前田さんが言う。  僕はもう卓球やらずに、妹と前田さんが卓球で遊んでいるのを横にベンチに座ったまま、スマホいじって時間をつぶしている。
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