雑司ヶ谷高校 執筆部
冷熱の卓球男~その4
 僕がベンチに座って休憩しながらスマホを眺めている間も、隣の台では福島さんとその友達(?)が代わる代わる卓球対決をしていた。  何か激しい勝負になっている。  どうやら、福島さんの友達(?)たちも卓球の経験者みたいだな。  しばらくすると、福島さんの卓球が一段落したようで、彼女は僕に話しかけて来た。 「ねえ、良かったら、私の友達を紹介するけど」 「えっ?! いいよ、別に…」 「そんな、遠慮しないでよ。女子を紹介するって言ってるのに断る男子が居る?」  ここにいるぞ。  女子を紹介された代わりに、なんか要求されそうだしなぁ。 「間に合ってるから…」 「女子が間に合ってるって、さすが雑司が谷高校屈指のモテ男だね」 「だれが屈指のモテ男だって?」 「だって、モテてるじゃん。いつも、女子を両サイドに侍らしてるし」  それは、毎週金曜日の弁当交換会のことか? 「あれは、週1回だけだよ。それに2人だけじゃん」 「2人にモテても、それではまだ足りないと?」 「そういう意味じゃない」 「まあ、いいから、ともかく来てよ」  そう言って、福島さんは僕の腕を強引に引っ張って立ち上がらせた。  そして、福島さんたちが遊んでいる卓球台まで連れてこられた。  福島さんの友達は卓球をする手を止めて、僕のほうを向いた。  福島さんは僕を2人に紹介する。 「じゃーん! こちらが、雑司が谷高校の影の卓球部員、武田君でーす」 「僕は、いつから、影の卓球部員になったんだよ?!」  僕の苦情を無視するように、友達2人が挨拶してくる。  1人は、背が高くて、長い黒髪を後ろで束ねている、痩せてスラリとした女子。  僕より背が高いのでは? 電柱みたいだ。 「はじめまして。三好です」  そして、もう1人。  ちょっと小柄で、明るい茶髪を肩ぐらいまで伸ばしている女子。  雰囲気が、福島さんにちょっと似てるな。 「こんにちは、村上と言います」  とりあえず、挨拶を返しておく。 「こ、こんにちは」  知らない人と話すのは緊張するな。  長身の三好さんが話しかけて来た。 「武田さんの噂は、かねがね、さっちゃんから聞いています?」 「さっちゃん?」 「福島さんのこと。福島来路花サルビアだから、“さっちゃん”」 「どうせ、良い話じゃあないんでしょ?」 「そんなことないよ、武田君は卓球が上手くて、あれは天性の才能だって言ってた」 「いやいやいやいや。大言壮語でしょ?」  福島さんが補足する。 「三好さんと、村上さんは同じ黒鐘高校で卓球部所属。私とは、おな中で、中学の頃は卓球部で一緒だったの」 「あ、そう」  あまり興味がない。  そんな僕を気にも留めず、福島さんが提案してきた。 「ちょっと、私たちとも卓球やってかない?」 「さっき卓球勝負したから、もう疲れたよ」 「何、言ってるの? 休憩してたでしょ?」  そう言って福島さんは、強引に僕にラケットを掴ませる。 「じゃあ、ちょうど4人になるから、ダブルスやってみようか?」  しょうがないなあ。さっさと終わらせて帰ろう。  ということで、僕と福島さんがペア。三好さんと村上さんがペアになって試合をすることになった。  試合開始。  村上さんのサーブ。  スピンが掛かっているが、これぐらいなら福島さんに教えてもらったこともあって僕はそれを簡単に打ち返した。  玉は相手側の台を跳ねる。それを三好さんが打ち返した。  さほど、玉に勢いがなかったので、僕はそれをスマッシュで返した。  玉はかなりのスピードで相手側の台を跳ね、村上さんと三好さんの間をすり抜けて床に落ちた。  ふっ。決まったな…。  村上さんと三好さんは呆然と立ち尽くしたまま、僕を見ている。  僕のスマッシュが、そんなにすごかったか? 「ねえ。武田君」  背後から福島さんが声を掛けて来た。 「ダブルスは、交互に打たなきゃダメなんだよ」 「へ?」  僕は、福島さんの言うことが理解できず、変な声が出た。 「だから、武田君が返したら、次は私が返さなきゃダメなの」 「そう…、なの…?」  そんなルールがあるとは、知らなかった。 「だから、今のは向こうのポイントね」  気を取り直して、試合再開する。  ダブルスに全然慣れない僕は、福島さんの足を散々引っ張ってしまった。  結局、6-11で敗北した。  隣で遊んでいた、妹と前田さんが声を掛けて来た。 「お兄ちゃん、そろそろ時間だよ」  卓球台レンタルの時間終了だ。  福島さんたちはまだ、時間が残っているので、もうしばらく遊んでいくという。  僕たちは福島さんたちに挨拶をして、妹と前田さんと一緒に卓球場を後にし、それぞれ帰路についた。
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