雑司ヶ谷高校 執筆部
バレンタインデー~その1
 そして、さらに翌日。  バレンタインデー。  僕にとって中学だった去年までは、全く関係のないイベントだったが、今年は違う。雪乃と毛利さんからは、もらえそうだからな。多分。  登校して校舎に入り、げた箱あたりから男子どもが浮足立ているのがよくわかった。  近くで、誰かのげた箱にチョコが入っていたらしく、歓喜の声を上げる男子がいる。  僕は、それを横目にげた箱の扉を開けた。  すると見覚えのある封筒が入っていた。  これは、上杉先輩か…。  中には、『今日、部室に来い』という指令が書いてあるのだろう。  その封筒を取り上げると、さらにその下に別の封筒が…。  おや?  僕は見慣れない封筒を取り上げた。  薄いピンク色の封筒に、『武田純也様へ』と書いてある。  宛名の筆跡は、上杉先輩じゃあないみたいだけど…。  裏に差出人の名前はない。  誰の手紙だろう?  とりあえず、上杉先輩の手紙と、謎の手紙をポケットに入れる。  毛利さんが登校してきたので、一緒に教室に向かう。  教室も、いつもと雰囲気が違う。  女子たちが友チョコを配り合ったり、数人の男子にチョコを渡したりしている。  教室の半数近い男子がチョコと縁遠いようで、厭戦気分の様子。  僕は自分の席に座る。  早速、雪乃が近づいてきた。そして、赤い包みを差し出した。 「はい、純也。バレンタインチョコ」  そして、微笑みながら言う。 「もちろん、本命チョコだから」 「お、おう…。ありがとう」  雪乃は用件が終わるとすぐに立ち去って、陽キャ友達の輪に入っていく。  隣の席の毛利さんにも声を掛けられた。 「私も、チョコ、あげる」  そう言って、青いリボンのついた白い箱を手渡してきた。 「お、おう…。ありがとう」  毛利さん、何も言わないけど、本命だよな…? 多分。  想定していたとは言え、雪乃と毛利さんからチョコがもらえてちょっと嬉しい。  そうこうしていると、悠斗が登校してきた。  彼は両手に紙袋を持っている。どうやら中には、さっそく、もらったチョコが大量に入っているようだ。さすが、悠斗だな。  日頃からのモテっぷりの上、中学の時も毎年チョコを大量にもらっていたので、この光景は予想できた。  毛利さんがすっくと立ちあがって、悠斗に近づいてチョコを渡しているようだ。  最近は、毛利さんと悠斗が会話をしているところを全然見たことが無かったので、僕は予想外でちょっと驚いた。  1学期の頃は、僕と悠斗と毛利さんの3人で昼休みに弁当を一緒に食べることもあったけど、最近の悠斗は他の仲間と昼休みは過ごしている。  僕は毛利さんを目で追う。  悠斗と毛利さんは何か会話しているようだが、離れているのでその内容は聞こえなかった。  あれって、義理チョコだよな…?  いや、あれが仮に本命チョコだったとしても、僕に何かを言う権利はない。  なにせ、毛利さんに告白されて、フッたのは僕の方だからな。  その後、1時限目の授業が終わり、朝、げた箱に入っていた手紙を読もうと思い、トイレの個室に入る。  まずは、上杉先輩からの手紙の封を開ける。 『今日、部室まで来てよ』  想定内の内容だった。  しかし、何の用だろうか?  月末のお城巡りで何か変更でもあったかな?  ともかく、放課後は真帆にも呼び出されているので、用件は手短に済ませたい。  そして、もう1つの謎のピンク色の封筒を開けた。  中の手紙には、 『お話したいことがあるので、放課後、プール横の水泳部の部室前まで来てください。                           赤松真琴』  と書いてあった。  差出人は、赤松真琴…?  名前は、聞いたことあるな?  誰だっけ?  そして、水泳部の部室横か。  冬の間はプールは使っていないから、あの辺りは人があまりいないはずだ。  それにしても、何の用事だろう?  バレンタインのチョコでもくれるのかな?  僕は再び手紙をポケットに入れると教室に戻った。  そして、日中の授業はすべて終わり放課後となった。  歴史研の部室に呼び出されているが、まず先に、僕は指定されたプール横の水泳部の部室前に向かうことにする。
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