雑司ヶ谷高校 執筆部
バレンタインデー~その3
 よく知らない女子に告白され、フッてしまうという事件に憔悴するも、上杉先輩に呼び出されているので、仕方なくフラフラと歴史研の部室に向かう。  僕は部室の扉を開ける。  今日も伊達先輩と上杉先輩が、ポテチを肴にジュースを飲んでいた。  毛利さんも先に来ていて、その仲間に入っている。 「いらっしゃい」 「来たね!」  伊達先輩と上杉先輩がいつもの挨拶をしてきたので、挨拶を返す。 「ど、どうも…」 「どうしたの? なんか疲れてない?」  上杉先輩が尋ねて来た。 「ええ、いろいろありまして…」 「ふーん。そう言えば、下駄箱にラブレター入ってたでしょ?」 「はぁ?! なんで知ってるんですか?」 「いや、アタシが手紙置こうとしたら、もう誰かが置いた別の手紙があったから」 「ああ…」  そうか、そう言えば、上杉先輩の手紙は赤松さんの手紙の上に置いてあったな。  先に赤松さんが手紙を置いたという事か。 「で、ラブレターの中身、どうだったの?」 「べ、べ、別にいいじゃないですか?」  突っ込まれると面倒なので、早めに話題を変えよう。 「それで、上杉先輩は何の用でしょうか?」 「何の用って…、今日はバレンタインデーだよ!?」 「それは知ってますよ」 「だから、キミにチョコをあげようと思って」  そう言って上杉先輩は机の上の包みを指さした。  机の上には、2つ別の包みがあった。 「私と紗夜からよ」  伊達先輩が解説する。 「えっ?! そ…、そうなんですか? ありがとうございます」  僕は椅子に座って、その包み2つを受け取り、自分のカバンに入れた。  次に上杉先輩は、毛利さんに尋ねる。 「毛利ちゃんは、もうあげたの?」 「はい」 「モテモテだねぇー」  上杉先輩はさらにニヤつきながら、僕のほうを向いた。 「でも、上杉先輩と伊達先輩のは義理チョコですよね?」  そして、毛利さんのチョコも、悠斗にあげたのが本命で、僕にくれたのは義理チョコかも知れない疑惑がある。 「当たり前じゃん!」  上杉先輩は大声で答える。 「義理チョコをもらっても、それはモテていることにはならないのでは?」 「そんなこと無いよ。だって、義理チョコすらもらえない男だっているんだから」  まあ、そう言われれば、そうかな。 「ええと…。それで、僕を呼びつけたのは、義理チョコをくれるのだけが理由ですか?」 「そうだよ」 「じゃあ、僕は次の用事があるので、これで失礼します」 「えっ?! 用が済んだら、さっさと帰っちゃうの?」  上杉先輩が睨みつけるように言う。 「昨日のうちに、他の呼び出しをされていたんですよ」 「女?」 「ええ…、まあ…」 「違う女に、またチョコをもらいに行くんだ?」 「違いますよ」 「バレンタインデーに呼び出しって、チョコをあげる以外にないと思うけど? あと告白とか」 「えっ?! そ、そうですか?」  でも、真帆には先日、すでにチョコをもらっているからな。告白はどうなんだろう? 「た、多分、違うと思いますけど」 「まあ、明日も部室に来てよ。それで、キミが何個チョコをもらったか報告してよ」 「ええーっ?」  変なことを言われたので驚いたが、まあ、それぐらいならいいか。 「わかりました。明日、また部室に来ます」 「じゃあ、頑張ってね」  上杉先輩はそう言って僕を送り出してくれた。  一体、何を頑張るというんだろ?  赤松さんと上杉先輩に呼び出しを食らったので、ちょっと遅くなってしまったが急ぎ足で、げた箱に向かう。  靴を取り出そうと、僕のげた箱を開けると想定外の事態が起こっていた。  中には、リボンで閉じられた包みら、小箱やらが何個か入っていた。  現状を認識するのに少々時間を要した。  ええっ!?  僕は驚いて、げた箱に書かれている名前を確認した。  間違いなく僕のげた箱だ。  一体、どういうこと?  これって、僕宛のチョコってことで良いんだよな?  真帆を待たせることになるので、あまり考え込んでいる時間はない、急いでチョコが入っているのであろう箱や包みをカバンに詰め込む。  すでにもらったチョコもあって、カバンの中が一杯だ。ファスナーが閉じない。  LINEで、ちょっと遅くなることを、真帆に送る。  そして、カバンのファスナーが半開きで、袋が顔をのぞかせた状態のまま、僕は真帆との待ち合わせ場所である、池袋サンシャインシティのマックに急ぐ。
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